こころあそびの記

日常に小さな感動を

つらつら椿

f:id:snowrumirumi:20210223120022j:plain

 お水取りの行事が始まったと耳にしました。3月13日の籠松明の勇壮さがニュースになりますが、実はその一ヶ月以上前から準備がなされます。
 クライマックスが行われる二月堂は入場禁止ですが、堂内を埋め尽くすのは椿の花です。行事期間を保たせるために和紙で手作りされたものと聞いています。
 木へんに春と書いて「椿」。椿は春を告げる花だから修二会を演出する上で欠くことのできないお道具です。
 そうだ!椿に会いに行こうと思い立ち、笑い始めた箕面山を目指して散歩に出かけました。
 楽しみにしていた落花で散り敷かれている場所がなくて、遅かったかなと気落ちしながら上っていくと、清掃管理をされている方と遭遇しました。
 「すみません。椿はもう終わりましたか?」
 「いや、これからですよ」
 と、枝を下げて蕾を見せてくださいました。
 途端に、元気百倍。やっぱり、お水取りの間に咲く花だったのですね。時節を違えない自然はえらいです。
 ところで、箕面といえば秋の紅葉が有名ですが、照葉樹林帯にあることをご存知でしょうか?
 滝道に入ってすぐに、「しいの花 八重立つ雲の如くにも」という野村泊月の句碑が立っています。
 このシイ、カシに代表される遠くから見るとブロッコリーのような樹形をした木、ツルツルした葉っぱを持ち、お日様を浴びたら光る葉っぱを持つ木が照葉樹です。
 だから、ピカピカ葉の椿も照葉樹です。
 「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ思はな巨勢の春野を」
 この万葉集の歌にあるように、その昔、奈良、和歌山を含む紀伊半島照葉樹林が広がっていたそうです。
 今は開発によって消えそうになっていることが残念ですが、意外な所に残っているのが救いです。
 それは、神社です。鎮守の森は照葉樹の森です。シイやカシや椿、神様にお供えする榊もあります。ドングリがいっぱい落ちていたら、それは、照葉樹林です。森の動物たちの冬眠前のご馳走になる森です。
 かつて、鎮守の森を守ることを唱えた南方熊楠。彼の勉強部屋は照葉樹林の中でした。その鬱蒼とした森は湿度が高く、粘菌類のよく育つ環境にありました。
 照葉樹林文化を研究されている学会があります。
 そのお話によりますと、中国雲南省、台湾から日本南部に延びるのが照葉樹林帯で、その特徴は熊楠の愛した湿度にあるそうです。湿り気が発酵食品を生み、お茶を生み出しました。
 遠い昔から、食料になり、燃料になり、文化を生み出してきた森は、今も未来もみんなを見守り続けてくれるありがたい存在です。大切に守られますように。