こころあそびの記

日常に小さな感動を

萌え出づる春

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「岩走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりに       けるかも 志貴皇子
  
 春になれば口ずさみたくなるお歌です。
 春になったよろこびと清々しさを歌い込んで、しかもそのリズムが体に残ります。
 その情景の垂水が摂津国にあることは嬉しいに尽きます。当時の難波宮から皇子さまが遠足に行かれた様子を想像するだに楽しいことです。
 さて、昨日は啓蟄でした。
 虫もいよいよ陽気に誘われて目覚める日。
 それをどう捉えるかは人それぞれですが、笑えるものもありました。虫がいっぱい出てくるから、追い払うためには激辛の食事で発散しようというものまでありました。
 虫さんは悪くないのに・・
 今から百花繚乱の時期を迎えます。動かないけれども知恵を尽くして虫を待つ花々。そのいのちを繋ぐ役目が虫にあります。自然界の循環は知れば知るほど驚かされることばかりです。
 さきのお歌登場する蕨をはじめ、春は苦みのある山菜の季節です。旬のものには必ず意味があります。苦味は毒を消し、余分な水を排出する力があります。冬眠中にがんばった腎を労る味です。
 そうして来るべき活動の季節にスムーズに移行できるよう準備をするのです。
 それから、苦味にはもう一つ、ストレス発散という作用もあります。「お茶しよか」「コーヒー入れよか」「仕事のあとのビールがうまい」など人はあらゆるシーンで苦味を上手に使ってバランスをとっています。
 これから始まる陽の季節。活動がそのポイントです。
 しかし、目覚めました!はい、走り出しましょう!は事故の元です。
 近頃、「布団の角で足を引っ掛けました」「模様替えしたこと忘れて夜中にテーブルにぶち当たりました」「石ころに躓いて」と骨折にいたるケースが増えています。いつもの冬眠以上に、今年は自粛生活で体がなまってしまっているからです。
 ミツバチも目が覚めて巣から外に出たら三十分間はじっとしているそうです。あんな小さな虫が教えてくれています。どんなに走り出したくても、ちょっと待って!呼吸を調える余裕を持つんだよと。
 「春眠不覚暁」うとうとしながら小鳥の囀りを聴く時間も春の楽しみです。