こころあそびの記

日常に小さな感動を

桃の花

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「春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ乙女
                   大伴家持

 ふと、桃の花が恋しくなりました。通りすがりのお花屋さんの店頭を見渡しましたが、早くも桃は見当たらず早咲きの桜ばかりが並んでいました。
 桃は桃色。孫がそれはピンク色だよと言いますが、いや桃色という方がふわふわして、ファンタジックな印象で好ましく思えます。桃源郷のイメージでしょうか。
 少女の美しさを紅と桃の花で表現した家持さんは男性には稀なるセンシティブな感性を持たれていたのか、それとも男性はみんなそうなのか。そんなことはダイバシティが叫ばれる今日は禁句ですね。
 家持は29歳で越中守に任じられ6年後に離任するまでの間に、持ち前の才能に磨きをかけました。人口に膾炙している万葉歌は殆どがこの時期のものです。彼を称える「高岡万葉まつり」は、毎年10月に高岡市万葉歴史館で夜通し行われる歌会です。昨年、今年と家持ファンとしてはその開催が気になるところです。
 さて、人の目は実際の色より濃く記憶するものだそうです。桜色はその代表です。ほとんどの人は桃色に近い色を思い浮かべるようです。しかし実際はずっと薄くて、遠くから見ると白い霞のように見えます。この儚さと散りぎわの鮮やかさを併せ持つ花だから日本人に愛され続けてきたのでしょう。
 五行色体表によれば、冬は玄、春は青、夏は朱、秋は白と各季節に配色されています。
 さあ、今から、色のない秋冬から打って変わって自然界に色が溢れ出します。といっても、あくまでも薄い色調です。決して個性的な派手な色ではなく、まさに桜色の可憐な色合い、明るさが春の信条です。
 “天人相応”。人は天の巡りに応じます。
 乗り遅れず、上手に季節の移り変わりに応じてまいりましょう。