こころあそびの記

日常に小さな感動を

菜の花

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 『朧月夜』
  菜の花畑に入り日薄れ
  見わたす山の端 霞ふかし
  春風そよ吹く 空を見れば
  夕月かかりて にほひ淡し

 菜の花畑を見かけることもなくなりました。その昔には菜種油が貴重であったので、各地で栽培されていたようです。
 「朧月夜」の作詞をした高野辰之は長野県に生まれ、大正時代に盛んに作られていた菜種畑を見て育ったことが歌に反映されているのではないでしょうか?
 人間は記憶の中にあるもので出来ていると思っています。できることならこんな美しい光景を眼裏に持ちたいものです。
 春の到来を告げる色は桜色という方が大多数でしょうが、その前に臘梅、サンシュユレンギョウなど黄色い花も少数派ながら咲いています。
 中でも菜の花はどこにでも咲いていた黄色の代表です。今では河川敷など探さなければ目にすることがなくなった菜の花。
 それでも、「朧月夜」は今頃の季節になれば思い出す美しい歌です。
 
 「菜の花や 月は東に 日は西に」与謝蕪村

 蕪村は大阪の人です。この俳句は六甲山系の摩耶山で詠まれました。江戸時代には、六甲から見下ろす一帯にも菜種畑が広がっていたようです。
 六甲山は南に海が広がり東西を見渡せる場所ですから、空が広くて夕暮れの美しさは格別です。黄色の畑に夕焼け色の空と海。それを期待して山道を上った蕪村の気持ちは私達と同じだったかと思うと、次回の六甲山からの眺めは違った感慨がプラスされることでしょう。
 蛇足ながら、この句は旧暦の3月23日に詠まれたといいますから、新暦でいえば来月になります。
 でも、月が東から上ってくるのと同時に夕日が見られるのは一ヶ月の中でも満月前の数日です。ちょっと早いけれども、今週がチャンスです。木曜日、日曜日は雨予報ですから、金曜日、土曜日あたりが絶好かな。お見逃しのございませんように。
 ですが、肝心の菜の花畑が見当たらないのはどうしたものでしょう。