こころあそびの記

日常に小さな感動を

鼠色が好き

f:id:snowrumirumi:20210519165439j:plain


 梅雨空の毎日です。
 仕事場に向かう車の進行方向に広がる湿気の固まりの色を何色と表現したらよいのかと、思案しながら空に訊ねた朝でした。
 実は、私、何を隠そう「色」が大好きなのです。
 30代の頃、色彩検定なるものができて、早速講習会に出かけました。
 「春は”青“。だから青春というのですよ。夏は“朱”。朱雀通りは南の大通り。秋は”白“。北原白秋ですよ。冬は“玄”。素人の反対は玄人よ。」と、五行の説明をその時初めて教えてもらいました。それが、いつの間にか中国医学に嵌まるきっかけとなったとは面白い出会いでした。
 人は、誰かに、どこかで、導かれて生きていくものだとつくづく思います。でも、その時に選択するのは自分ですから、百パーセントの出会いはないわけで、それが、また、それぞれの人生の妙味です。
 さて、多様な生き方と同様に、色の好みも人それぞれです。私は、何故か、グレイッシュブルーに心惹かれます。イギリス、スコットランド地方の色でしょうか。ピーターラビットのあの青色でしょうか。
 でも、英国なんて行ったこともないし、英語が得意でもありません。
 なんで?の疑問が、今朝の空をじっとみているうちに、解けてきたように思えました。英語じゃなく、日本語で、「鼠色」(ねずみいろ)という表現に置き換えてみたら、しっくりしたのです。
 鼠色はいわゆる灰色のことです。灰色は火事の燃えかすを連想させるから、今は使われないそうです。
 鼠色のバリエーションはたくさんあります。そして、その命名がどれもこれも美しいのです。
 薄い鼠色にお花の色を合わせて染めたら、「桜鼠」、「柳鼠」、「藤鼠」など微妙な色合いができあがります。お着物なら、「銀鼠」(ぎんねず)が着れる年齢っていいですね。
 ところで、色は色だけで進化できません。染めるものがあって初めて実力が発揮できる代物です。
 吉岡幸雄さんの「色の歴史手帖」を開けば、多くのことが学べます。色を染める紙の製作がどれほど大変なことかが記されています。
 まさに、紙は神なりです。紙ができるまでは石ころや羊の皮や竹や木に書いていた文字をかさばらなくて持ち運びしやすい紙に書けるようになったことは、文化度を爆発的に押し上げたことでしょう。
 その真っ白な紙にうっすらと色を乗せるのが吉岡さんのお仕事です。納期が決まっている行事に合わせる工程は染料になる草木を集めるところから始まります。遠くは中国からというものもあるそうです。緊張を強いられる作業にどれほどの度胸がいることかと、肝っ玉の小さい私には想像ができません。
 和名は微妙な一色一色に名前が付いています。グレイッシュブルー(もちろん色の配合を決めて色番をつけると確定するのですが)という大ざっぱな括りではなくて、その名前から色の意味が想像できるように命名されています。
 今朝の空の色は何色というのが相応しいのかしらと、色見本と見比べたところ、「青白磁」という白磁器の色。「小町鼠」(こまちねず)というほんのりと赤みのある鼠色。「白縹」(しろはなだ)という上品で明るい鼠色。次々と候補が変わっていきます。
 梅雨空は一色に見えるけど、宙の果てから太陽光線を受けて刻々と淡くなったり濃くなったりしていることに、自分の観察眼もまだまだやなと思った次第です。