こころあそびの記

日常に小さな感動を

雀色時

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 昨日の夕焼けご覧になりましたか?
 夕暮れ前に雨が上がれば、空は太陽が沈むまでのわずかな時間に慌ただしく変化していきます。その変化を見逃さないよう、長らく満足に散歩できなかった愛犬を連れて、外を歩いてみました。
 太陽の光が長らく地上に届かなかったので、雲が切れて明るい光が漏れてきただけで、有り難みを感じます。 
 坂道なればその光景がより美しく見えます。山が燃えるって、こんな感じなんだと見とれていると、目の前のお宅から「見て見て!きれい」と声が聞こえました。
 みんなの気持ちを一つにする美しい夕暮れでした。
 「芽吹き雨雀色時過ぎにけり」(宮坂静生)
 もう、芽吹きは過ぎて新緑も過ぎて、緑が日一日と濃くなる季節ではありますが、雨上がりの雀色は思いを共有できます。
 昔は日が落かけて薄暗くなった夕暮れ時を雀色時と呼んでいたと教えて下さったのは、40年も前に通った作文教室の山根英夫先生です。豊中不動尊近くの豊中市婦人会館のサークル活動でした。
 何回か、みんなの作品を冊子に作って下さったこともありました。その冊子名は「たまかつま」(玉勝間)でした。
 「玉かつま島熊山の夕暮れにひとり君か山路越ゆらむ」(万葉集)
 この歌から枕詞の「たまかつま」を本の題名に、挿し絵はかつまの意味から「籠」が採用されました。メンバーの皆様の熱い思いが籠もった上梓であったのだと、本棚の隅の方で小さくなっている冊子を見かける度に、酸っぱく思い出されます。
 さて、西国街道が通る以前、万葉の時代には、この北摂の山を越えて行く人があったのですね。勇気のいることだったでしょうに。
 この一帯は千里丘陵に連なる山でありました。
 古墳時代から人が住み、須恵器や土師器が焼かれた窯跡が桜井谷や緑が丘にあったことが知られています。西側の待兼山にはワニの化石が出土したから、豊中市のキャラクターは「マチカネワニ」です。
 五月晴れの日には、阪大坂を上がって、待兼山から千里までという散歩コースはいかがでしょう。
 玉勝間の歌のように、大切な人の遠出が心配なのは、山に高速道路が走るようになった今も同じです。
 どんなに環境が変化しても変わらない、時代を越えて変わらないものが宝物です。それは、喜怒哀楽を持つ心ではないでしょうか。
 人間によくぞ“心”というものを備えて下さったとsomething grateに感謝いたします。そして、そのことを説き続けて下さった村上和雄先生のご冥福をお祈りいたします。ありがとうございました。