ついに、篤太夫は自分の進む道を見つけました。
昨晩の「青天を衝け」のラストで、「これだ!俺が探し求めてきたのはこれだ!」という台詞が叫ばれました。
この物語の冒頭で母の渋沢ゑいが4歳の息子を諭した言葉は、和久井映見さんの揺らめきのあるイントネーションのおかげで耳に残るものとなっていました。
「あんたがうれしいだけじゃなくて、みんながうれしいのが一番なんだで。人は生まれてきたそのときからひとりでないんだよ。いろんなものとつながってんだよ」
最愛の母の暖かさと真剣な眼差しは、志しを持って生まれてきた幼子の体の底の方に沈められて消えることない宝物となりました。
そして、フランス人から学んだ株式という方法が、一人一人の小さなお金が社会に役立つ大きなお金になることを知ったとき、「これだ!」と掴んだのです。
まさしく、片時も忘れなかった母のあの言葉が浮上してきたから掴めたといえるでしょう。
親の言葉はそれほどの力を持つものであることを、脚本家の大森美香さんは上手く畳み込んでおられて、共感を誘う昨日の放映でした。
オリンピックは終わりましたが、アスリートたちのインタビューで必ずといえるほどに聞かれたのが親への感謝の気持ちでした。
親になった日から、この子はこれが好きかもしれない。ひょっとしたらこれが人より得意かもしれない。
そんなちょっとした様子を見逃さず、自分の人生を子供に与え尽くせる人がおられます。
決して自分本位にならず、子供をよく見て成長を導ける親を本当に尊敬します。
どんなときも、見放さない。孤立無援になってもあなたを守る。それが、この世に親子として縁を結んだ証という責任感に頭が下がります。
一生涯、陰で祈り続ける姿勢を崩さないのに、確かな芯を持っているのが、明治維新という難しい時代に生きた女性でした。
ゑいが息子に言い聞かせた言葉は、自分の胸にずっとあった希望ではないでしょうか。母が胸の底で長い間温めていた願いが我が子に託されたといえます。
願いを持って生きることを教えたのは宮沢賢治だったでしょうか。人は誰もが真剣に願いを胸に抱かなくてはと思うところです。
願いがなければ、伝える言葉も出てきません。
言葉でなくとも、傍に居合わせた人に雰囲気で伝わるものも、その人の持つ夢であり希望です。
育て上手な人とは、まず、自分の中に夢がある人ではないかと思った次第です。