「九月九日は あかつきがたより 雨すこしふりて
菊の露もこちたく おほひたる綿なども
いたくぬれ うつし香も もてはやされて
つとめて やみたれど なほくもりて
ややもせば ふりおちぬべく みえたるも
をかし」『枕草子』
今日は菊の節句です。
今朝は、夜来のひどい雨の音で目を覚ました方も多かったようですが、清少納言が同じように、菊の節句が雨模様だったことを書いています。
千年以上の時を隔てて、同じ経験をしていると想うことは、素敵ではありませんか。想像するだけで、自分の生きる力なってくれるように思っています。
ただ、清少納言が認めた九月九日は降ったり止んだりだったようですが、2021年の9月9日はその後、雨が上がって、青空に白い雲の浮かぶ絶好の日和となりました。
清少納言さんが甦られたら「をかし」くないと仰るでしょうか。
花の四君子といわれる、梅、竹、蘭、菊のなかで菊は今や一年を通して花屋さんで見かけるので、そのありがたさが薄れつつあります。
しかし、古今和歌集でようやく詠まれるようになった菊は、中国文化を日本に伝えるツールとして大いに貢献した花であったことは間違いありません。
その頃は、貴族の屋敷の中で大切に育てられていたようです。特別な人達だけが愛でた花だったのです。
大陸から持ち込まれた当時の菊は、一株に白い花が一輪、その姿は凛としていたといいます。
露に移した香りで不老長寿を願い、漢詩に倣って酒に浮かべて憂いを払った菊の花。中国文化の真似事をした貴族の様子を伝える花でもあります。
菊花は現在も大切な生薬です。
その性味は苦寒ですから、肺、肝の熱を冷ます効用があります。
老年に近づくにつれて、潤す陰が少なくなるから、熱がこもりやすくなります。年と共にシワシワ、不眠、痒み、見えづらいなどの症状が多くなるのは陰虚の特徴です。
菊は肝熱を冷ましてくれます。肝は目に開竅(かいきょう)するといわれますから、目が赤くなっているのは、肝熱がたまっている証拠でもあります。ストレスや過労はありませんか。
目を使い過ぎた時には、菊茶で目を冷ましたり、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)で陰を養うのも一法かと思います。いずれにしても涼やかな目元が健康の証です。
昔の人は肝と目が通じていることを知っていました。
現代人もその知恵にあやかりましょう。
そして、減っていくものを増やすことを考えるよりも、今あるものを健やかに保つ自分オリジナルな方法を工夫する毎日でありますように。