こころあそびの記

日常に小さな感動を

塔の上なる冬の雲

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 朝、目が留まるもの。それが今日のご縁です。
 本棚の一番隅で落っこちそうになっている『仏像を観る』(紀野一義文、入江泰吉写真)を発見!。書棚の整理ついでに手に取ったが最後、紀野さんの“まえがき“に目を通したついでに、一枚捲って薬師寺東院堂におられる「聖観音」が巻頭を飾っているところまで見てしまいました。
 この仏像は私が薬師寺で一番好きな観音像です。孤独だった若かりし頃、この仏像の清らかさに救われたのです。紀野さんと同じだと思った途端、行かずに居れなくなりました。

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 ということで、仕事終了後、久しぶりに乗り鉄をして西ノ京に向かいました。
 近鉄京都線に乗るのは生まれて初めて。こんなに広々とした場所が関西に残っていることに驚きました。木津川がカーブしている上を電車が通るとき、河川敷の広さにはっとしました。手付かずに残る風景を堪能するには乗り鉄です。

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 数年ぶりの薬師寺。調べて来たわけでもないのに、来年お正月まで全伽藍特別公開中でした。それだけで、もう、感激してしまいました。ご招待日だったのだと。
 高田好胤管長が始められた写経勧進が840万巻に達して、伽藍は賑やかな景観に様変わりしています。
 カメラマン、入江泰吉さんといえば勝間田池から臨む薬師寺の東塔が代表作です。しかし、今や、完成した西塔も立ち並び悲願の伽藍復興は現実になりました。
 その立役者、高田好胤管長の法話はその頃、薬師寺名物でした。
 丁度、本日の法話が始まるところだったので拝聴する事にしました。(講師のお名前を失念してごめんなさい)
 昔は伽藍の中には天皇と管長しか入れなかった。ガランとしていたから伽藍という、なんて好胤法話の流儀は受け継がれていました。笑わしておいて、本当に伝えたいことをポロッとねじ込むのです。
 本日の核心。金堂の再建に取り組んでいたとき、松下幸之助さんが寄進を申し出て下さったそうです。その額、10億円。
 人の心を救うことを願って薬師寺の再建を目指しておられた高田好胤管長は、そのありがたい申し出を断られたそうです。建物を立てることが目標ではない。人々の心を安らかにしたいと心底念じた復興祈願でした。みんなの心で再建する。そのための写経勧進だったのです。
 学生時代、この納経に賛同して、何巻か納めさせてはもらっていたのに、その心を今頃になって知るとは・・否、この年になったから分かることもあるのです。長く生きることは、物事の意味の深さを知ることでもあるようです。

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 もう一つ大切なキーワードを解析してくださいました。
 「健(体)康(心)」。体健やかに心安らかに、それが健康の意味ですよと。
 店頭でも、ブログでも、我が身においても、このキーワードの意味を忘れないようにしたいと深く念じたことでした。
 
 ゆく秋の大和の国の薬師寺
 塔の上なるひとひらの雲  佐々木信綱

 この歌を口ずさみながら、東塔の上に流れる冬の雲を見上げて、目的の東院堂に急ぎました。
 幸い、私一人。ゆっくり聖観音様と向き合う贅沢なときを過ごしました。
 今日は18日。観音様の縁日です。そして、母のこの世の誕生日でした。来て良かった。