こころあそびの記

日常に小さな感動を

二代目に学ぶ

 昨日の帰りの車中。折しも、競馬G1競走『第82回皐月賞』の発走時刻となりました。
 競馬は全くの素人ですが、馬体の美しさを見るのは好きですから、叶うことなら、乗馬クラブや厩舎にそっと見に行ってみたいと考えてしまう隠れファンです。
 芝生を蹴散らして一着に入ったのはジオグリフという馬で、騎手は福永祐一とアナウンスされました。
 きゃー、あの福永さんの?と声を上げると、娘が知ってるの?と訊ねてきました。
 自信はありませんが、私の年代で福永洋一を知らない人は、潜りの昭和人ではないでしょうか。
 祐一さんのお父様である洋一さんは31歳のとき、阪神競馬場で落馬されて以来、今にいたるまで騎乗できないお身体になってしまわれました。
 当時、闘病とそれを支える奥様の姿をドキュメンタリー映像で拝見しては、涙したものです。
 そのお子様が立派に成長されて、お父様のあとを継がれていることは、うすうす耳にしていましたが、実際に観戦したのは初めてです。
 お父様の応援団に囲まれて同じ職業に就くのは、並大抵のプレッシャーではなかったはずです。

 ウィキペディアの情報は信用に足るものではないことをお断りした上で、高知競馬で『福永洋一賞』創設の際の祐一さんの言葉に涙しましたので記します。
 「親父が引退してもう30年になるのに沢山の人がおぼえてくれていてうれしい。自分は武豊さんに憧れて騎手になったつもりだったが、自分の中のヒーローは親父だったんだと初めて思いました」
 2歳から、お父様の病状とリハビリの様子を見て育った彼の心の中をちょっとだけ見られたように感じました。

 人生にドラマのある人は強いと思います。
 今、NHKBSで2006年放送の『芋たこなんきん』が再放送中です。
 先日も、「あれ観てる?面白いね。また、田辺聖子さんの本を読んでみたくなった」とお話しくださった方がありました。
 実は、私もついつい観てしまいます。
 主演の藤山直美さんのテンポのよい大阪弁が、画面から視線を外していても入ってきます。
 彼女は藤山寛美さんの娘さんで、演劇界の至宝です。
 あのドラマが面白いのは、彼女に負うところが大なのだろうとみています。
 寛美さんが亡くなった時、誰が後継ぎになるかで、しばらく揉めたように記憶しています。
 彼女に白羽の矢が当たったのか、それとも志願されたのか。事情は分かりませんが、直美さんで正解だったことが、何十年も経って明らかになりました。
 
 二代目の重圧に耐えうる人は、先代を憎らしく思う時期を越えて、心が素直になって先代を好きだったと思えるまで修行を重ねることができる人です。
 
 これは、すべての人と同じであるように思います。
 恨みや妬みという山路を越えられたら、その山頂から見渡す世界は今までとは違うことを信じて登り続けたいと思います。