こころあそびの記

日常に小さな感動を

『山本容子銅版画展』

 

 こんなやさしい目に誘われたら、行く、行く、絶対に行くよ、と約束してしまいますよね。。
 京都の美術館で目を引いたパンフレット。持ち帰っても、大概はいつの間にやら行方知れずになるのが落ちですのに、見事に生き残って、今日、私を連れ出してくれました。

 『山本容子銅版画展』に行ってきました。
 何年も前に、よくマスコミに登場されていたので、お仕事もお顔も存じ上げていました。それが、何という作品だったか思い出したいのに思い出せません。
 いやですね。物忘れが酷くなるって。いずれにしても、ずっと以前から好きな作家さんでありました。
 
 その温かみと色使いに特徴があります。
 といって、優しさの行き着くところは、年齢を重ねた者でなければ到達できない深い淵を思わせます。
 多方面で活躍中の方ですが、ライフワークとして医療機関、特に病院の壁画を手がけておられることをプロフィールで知りました。
 

 この方は本気なんだなと感じたのは、埼玉県立小児医療センター霊安室の『Angel's room 星のうた』という青色のステンドグラスです。
 全く色のないコンクリート剥き出しの地下室でお別れすることの多い中で、もし、こんな天上のような空間で魂が旅立てたら。私なら喜んで飛翔できそうです。

 そうそう、今日の展覧会は『プラテーロとわたし』というスペインのノーベル文学賞作家ヒメネスの詩から28シーンを選んで、山本容子さんが銅版画にされた原画展でした。
 赤銅色が持つオレンジ色が、素肌のあたたかさと、太陽が温めた大地と、信頼関係を表しているとあとがきにあります。
 「回復」という題の絵に、詩人ヒメネスの闘病の日々が描かれていまして、会場で一瞬、足を止めて見入りました。病める時、人は、七色に変わる空の色や、ふるさとの情景を思い浮かべるもの。それは、万国共通であることに安堵したのです。
 

 うれしいことに、山本容子さんは私と同い年と知りました。
 これらの絵が、同じ時代を生きた人から生まれたことに大きな喜びと誇りを感じます。
 悲しいことも苦しいこともあったでしょうに、プラテーロの目の中のやさしさを無くさないで、アイデアを生み続けるバイタリティに脱帽です。
 ルンルン気分で、詩画集『プラテーロとわたし』を一冊買って帰りました。この装丁の手触りと肌色にしばらく癒されることにいたしましょう。