娘が幼かった頃、「お母さん、雨の匂いがするよ」と言って、私を喜ばしてくれたことがありました。
もうじき、雨が降ってきそうな様子を、いち早く匂いで感じてくれた。そんなふうに育ってくれることを願った母には、何よりもうれしい出来事でした。
この雨の降り始める匂いのことを「ペトリコール」とよぶそうです。カタカナ言葉にあるということは、どこかの外国にも同じ感覚を持ち合わせる人がいるということ。万国共通がうれしいことです。
さて、近頃、山を見るたびに気になっています。
皆さんは、上の写真のようなクリーム色の山肌にお気づきでしょうか。
これは、椎の木々が花盛りなのです。
植物に詳しくないのですが、滝道にある野村泊月の句碑で、春には椎の花が山を彩ることを知りました。
泊月が66歳の時に詠んだそうです。8年後には失明したとあります。よくぞ、この歌を残して下さったと、私は通る度にありがたく思って偲んでいます。
「椎の花 八重立つ雲の如くにも 野村泊月」
この歌の通りに、山に雲がかかっています。
雨が上がったら、この句碑と椎の花を見に行きたいです。まだかなまだかな。
ところで、この椎の実が団栗(ドングリ)なのですが、これが二年越しに実るとは知りませんでした。
今咲いている花が実るのはこの秋ではなくて、来年の秋冬だそうです。じっくりじっくり栄養をため込むのですね。だれのために?それは、山に住む動物が厳しい冬をのり越えるための食糧です。
動物たちが美味しそうに食べている姿は童話の世界。想像しただけで幸せな気分になれます。
そして、この情景を大切に守ることに生涯をかけた方が、宮崎県綾町の郷田實さんです。
「山をみてごらん。肥料もやらないのに毎年見事に実って、動物たちのいのちを支えているよ」
そう娘さんに言い残されました。
山の樹木のうち、ブロッコリーの形に膨らんで見えるのが照葉樹林です。
常緑樹の椎、樫も、落葉樹のクヌギやナラもみんな花が咲いています。樹木の春の勢いも今が盛りです。
ドングリを実らせて、山の生態を守ってくれている貴重な木々です。
梅雨のはしりには少し早いようですが、今日の湿気には辟易された方もいらっしゃるようです。
いつもよりちょっと血圧が高かったという方は、お水を控えましょう。洗濯物と同じように、体も乾かない季節が始まります。
でもね、よく見ると、身の回りには、鬱陶しい気分を忘れさせるために用意されている花々がいっぱいです。
サツキが葉っぱが見えないほど元気ですし、アジサイは出番を待っています。
タチアオイをこよなく愛した人といえば、ターシャ・テューダーさんですよね。この花は「梅雨葵」という別名があるそうです。
茎の下の方から咲き始める頃が入梅で、上まで咲いたら梅雨明けなんだとか。
お母様からもらったタネを大切に育てて増やしたことは、つとに有名です。
なかなか手に入らないタチアオイ。来年こそ。