こころあそびの記

日常に小さな感動を

「浅茅が宿」

 

 昨日から「ジージー」と聞き慣れない声で騒がしく鳴いて桜の木を飛び回る数羽の鳥がいます。運良くその小鳥の姿を捉えることができました。
 多分、四十雀です。でも、近寄っても直ぐには飛び立たなかったこと、「ツッピーツッピー」と鳴かないことから、素人考えですが、幼鳥ではないかと思いました。
 カラスが近頃多いのは、この子たちを狙っていたのだと合点がいきました。どこか近くに巣作りしていたのかもしれません。
 無事に「ツッピーツッピー」と飛び立ってくれますように。私が聞き分けられるたった一つの鳴き声ですものね。

 ムッとした独特の匂いがしてきたら、足を止めて辺りを見回します。
 そこには必ず栗の花が垂れ下がっていて、秋の実りを約束されたことに満たされて、一時、匂いを忘れます。
 「栗花落」と書いて、「つゆ」さんと読むお名前があります。
 栗の花が散る頃に梅雨(つゆ)入りすることから、そう読むとは風雅なお名前です。
 入梅近いことです。

 この時期に、咲いている花に「茅」があります。
 若い頃には、ただの雑草でしたのに、土手一面に光を受けて風に靡く姿を好ましく思うようになったのは、老年になったからでしょう。
 この花も梅雨と関係ある言葉があります。
 「茅花流し(つばなながし)」です。梅雨前後に吹く湿った南風のことをいうようです。一つ知れば、歩く楽しみが一つ増えます。自然が巡る姿を生きる糧にした先人たちの生き様が想われます。


 さて、「茅」といえば、いの一番に思い浮かぶべきだったことがあります。
 宝塚歌劇浅茅が宿」です。
 轟悠さん主演のこの舞台に何度足を運んだことでしょう。轟さんに会うこと(観劇)だけに心躍らせて、『雨月物語』からとられた内容に分け入ることもありませんでした。
 上田秋成が怪奇幻想を描いた名作を題材に、「男の野望と女の夢と愛、そして、人の世の無情を舞踊詩として描いた」作品です。
 上田秋成が「茅」を使った意味が、今頃、分かりました。
 「茅」の持つ深い意味は今月とも深い関わりがあるので、またあらためて。
 それにしてもあの頃の熱情をもう一度味わいたい。
 それは、かなわない夢幻となりました。なぜなら、轟さんが全てから潔く退かれたからです。
 
 この世は一瞬一瞬が夢です。今を精一杯悔いなく過ごすことで、夢の絵巻物は完成します。させましょう。