こころあそびの記

日常に小さな感動を

重陽の節句

 今日は九月九日、五節句の最後、重陽節句です。

 中国の陰陽思想では、奇数を陽と考えましたから、一月一日(お正月)、三月三日(桃の節句)、五月五日(端午の節句)、七月七日(七夕)に続く今年最後の節句です。

 重陽節句は、一番大きな数字である“九”が重なる日ということで、一見パワーがありそうに思います。が、反対に、陽気が強すぎると考えた昔の人の用心深さに感心します。それだけ、医学も未発達であったのでしょうから、「不老長寿」という切なる祈りにかけたのだと思います。

 

 「九月九日、汝が家中、当に、大災厄あるべし。急ぎ家人をして嚢を縫わしめ、茱萸(しゅゆ)を盛り臂に繋け、山に登り菊花の酒を飲まば、この禍は消ゆるべし」(荆楚歳時記)

 

 九月九日は厄日だから、邪気払いすべきことが、いくつか書いてあります。

  まず、茱萸(しゅゆ)を入れた袋を縫って身につけること。

 これは、京都の寺などでお守りとして伝わっているようです。茱萸の赤い実が邪気を払ってくれると考えたからでしょう。

 二つ目が興味あるところです。

 高い山に登るのです。

 春は川で禊ぎをするように、秋は山に上って邪気払いをするというのです。これを「登高」といいます。

 邪気の及ばない高い所は、今も昔も人々の憧れる場所に変わりないようです。

 三つ目に、菊花を浮かべたお酒を飲みます。

 菊は、魔除けの霊力が宿るとされて、不老長寿を願う人々に愛された花です。

 

 ところで、浅田次郎著『蒼穹の昴』四巻をやっと読了しました。

 歴史小説家の勉強量の半端ないことに圧倒された数日間でした。

 ラスト近くで、西太后が「登高」を思いつく、という場面が出てきます。

 月遅れではあるけれど、「登高」して重陽のならわしを果たして行こうと言い出します。それほど、登高は大切にされてきたことが分かりました。

 山に登る。

 中国では秦の始皇帝も泰山で「封禅の儀」を行っています。

 歴代の皇帝が山に登り、即位を天地に知らせて、天下泰平を祈りました。

 山のてっぺんは天に近いと思ったのは、私と同じ感覚です。

 高い所から下界を見渡すのことで、気持ちが晴れ晴れするのは、今も昔も変わらないことなのですね。

 

 錦繍の山道。

 山歩きを楽しみたい季節になります。

 

 付記 

 旧暦では今年は10月4日が「重陽」です。