こころあそびの記

日常に小さな感動を

太陽の形代

 

 5月頃に芳しくも爽やかな香りを放ってから半年。誰に誇ることもなく静かに熟したオレンジ色に輝くみかんを、散歩道で見かけます。

 

 

 先日のBS『こころ旅』で火野正平さんが、童心を隠せない笑顔で、その大きな実を顔にくっつけて喜ばれた様子をご覧になりましたでしょうか。

 九州の旅でした。路傍の畑に生っている「晩白柚(ばんぺいゆ)」という“みかん”を発見された回です。

 マレー半島辺りが原産で、「晩」とは熟すのが遅いこと、「白柚」とは果肉が白いという台湾語と知りました。

 世界最大の晩白柚は、熊本八代高校が実らせた直径29cm、重さ4859gのもので、ギネス記録に認定されているそうです。

 

 

 ところで、「橘」といえば、ミカンのことと認識されていますが、それに異議を唱えた人が、来春スタートする朝ドラのモデル、牧野富太郎博士です。

 垂仁天皇に不老不死の霊薬として非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)を探すように命じられて、田道間守(たじまのもり)が常世から持ち帰ったのが「タチバナ」だと日本書紀などに残っています。

 その話から、世間が橘をミカンと混同していることは許せない。これは、日本に野生していたミカンとは全然関係ないものである、と牧野富太郎博士が『植物知識』の中で強い主張をされていることにびっくりします。

 この一項目を読んだだけで、彼の植物に対する愛情が半端ないことをおもい知らされるように感じました。

 

 

 この本の「あとがき」にこうあります。

 

 「 植物に興味を持てば三徳がある。

 第一に、人間の本性が良くなる。怒りを解かし和やかな心持ちになり、心が詩的になる。

 第二に、健康になる。戸外に出れば日光浴もできて運動が足りる。

 第三に、人生に寂寞を感じない。植物は永遠の恋人でいてくれる。 」

 

 寒さに向かう季節、ほかの木々が葉を落としたあとでも、青々とした葉の色を変えずに実っているオレンジ色に豊さを感じないではいられません。

 これを、古代の人が太陽に例えたことは納得です。

 

 昔、東海の扶桑の木に太陽が十個ありまして、毎日順番に一つずつ上っていたらしい。ところがある時、十個同時に上ったために灼熱に喘ぐ事になり、うちの九個を撃ち落とし、太陽は一つとなったとさ。

 

 この最後に残った太陽にいる金鳥が三本足の烏。

 深夜の熱戦に夢を見た人々は、健全な心に導かれたことでしょう。

 選手の皆さんの人生に栄光あれ。

 ありがとうございました。