こころあそびの記

日常に小さな感動を

五月の風

 

 ドアを開けたら、目の前で椋鳥の番(つがい)が土の中から何かを引っ張り出しているところでした。

 嘴で上手に挟んで、飛んでいってしまいました。おじゃましてごめんなさい。

 その後、カメラを携えて待ちましたが、もちろん姿は見せずじまいでした。

 近頃、ムクドリは害鳥扱いされているようですが、昔は一年間に100万匹の虫を駆除してくれる益鳥でした。

 そんなことを聞くにつけ、人間の身勝手さを謝りたい気持ちになります。

 日当たりのいい場所で、番が仲良く橙色の嘴を盛んに動かしているところは、平和な昼下がりの光景です。

 

 

 自分が学生だった頃には考えもしなかったことの一つに、学内の整備があります。

 四季を感じさせる花々や木々が美しく迎えてくれるのは、お世話して下さる方があって保たれていることにようやく気づける年になりました。

 昨日、駐車場から大学の教室に向かう道に、シナサワグルミの花がこんなに垂れ下がっている光景に出会いました。

 瞬間、思わず千里川のシナサワグルミが思い浮かび、おもしろいことに、千里川の木の方をより親しく感じたのは自分でも不思議な感覚でした。

 あの子も今頃、花をぶら下げているかしら。

 お世話したわけでもないのに、お話した回数が勝るとこういう感覚になることを知りました。

 自分の星に残してきた薔薇への思いを語った、星の王子さまの気持ちに共感を覚えたことでした。

 

 

 木々が花咲く季節です。

 トウカエデの花がこぼれんばかりについていることに驚きました。結構な大きさの木です。この元気は、地下の根っこから吸い上げられたものと思い至って、樹木への敬意が湧きました。

 

 

 ここのところ、朝のBSは、美輪明宏さんのナレーションで『巨樹』を放送しています。

 屋久島の巨樹を紹介した日は、その木に救われたという青年が映っていました。

 信州大学で山岳部に籍を置き日本中の山を制覇した彼は、満を持してヒマラヤに挑戦。そして敢えなく失敗してしまいます。ヘリコプターで救援されたことで、山に自分の存在自体を拒否されたように感じて心が折れたそうです。

 そんな心のまま、屋久杉に会いに行き、立ち尽くしたと云います。

 「たった25年しか生きてないお前が、なにを悩むことあるんだ」と、言われた気がして。千年、その場所で動かず生きてきた巨樹に、動けよ!と声かけられて、救われました。

 

 五月の風を受けて、木々がお話してくれる季節です。

 

 「  五月    室生犀星

 悲しめるもののために

 みどりかがやく

 くるしみ生きむとするもののために

 ああ みどりは輝く」

 

 

 サワサワという葉擦れの音が、私は好きです。

 浜辺で聞く波の音に似ています。

 体の中が空っぽになります。

 そんな時間を与えてくれる木々はありがたい存在だという思いを深くして、今日も木の上で吹き渡る風の音を聞いています。