こころあそびの記

日常に小さな感動を

ラクス君

 

 今朝はこの写真から始まりました。

 この子はスマトラ島に住むスマトラオランウータンで名前は「ラクス」です。

 顔面に大きな傷があります。縄張り争いか、はたまた枝から落っこちたのか。

 えぐられたような深い傷は化膿が始まっていたと伝えたのは、ドイツの研究チームでした。

 彼らは何十年もの間ジャングルで観察を続けて、オランウータンの警戒を解いたそうです。

 その結果が、この観察報告です。

 

 化膿しかけた傷を、彼が自己治療した様子が、科学誌『Scientific Report』に発表されました。

 まず、消炎、鎮痛、抗菌作用のあるアカルクニンの葉っぱを探し出し、それを噛み砕いて傷口に塗ったり貼り付けたりを何度も繰り返したそうです。

 その後、傷口は治癒し、その間、通常より多く休息を取ったとも書かれています。

 

 

 研究チームは、自分で自分を治療する行為は、私たちの進化の過程に深く根ざしていると指摘しています。

 それは、たまたまそういった経験をしたことがあるか、あるいは、母親の行動から学び取ったものなのか。

 いずれにしても、動物には生き延びるための知恵がある証拠です。

 

 

 そういう意味では、東洋という地域の植物の豊富さをありがたく思わずにはおれません。

 中国で生薬の利用が発達したのも、多品種の植物が生えていたから可能だったからに違いありません。

 日本にも民間療法がたくさんあります。

 ドクダミヨモギは序の口。喉には南天のど飴とか、ユキノシタの絞り汁を中耳炎に使うなど。

 花梨の会のメンバーのお一人から、トウモロコシの髭を煎じ液で腎炎を治したとお聞きしたときは、もっと早く知っておけばよかったと思ったことでした。

 気になる症状があれば、直ぐに病院に駆け込むようになった現代では忘れ去られた民間療法ですが、先人が身近にある植物に薬効を求めた歴史に興味を持てば、新しい発見があること必定です。

 

 今でも、漢方の処方薬の中には、道端で見かけるものがいっぱいあります。

 今、盛んに見かける金銀花。なんと美しい造形でしょう。しかも、必ず白色と黄色。金銀花と名付けた人のセンスの良さに脱帽です。

 それから、もうすぐ花がみられる五行草。雑草名で、スベリヒユです。

 栄養豊富で天然の抗生物質といわれても、この雑草のお浸しを食べるには勇気がいると思ってしまうから、私も現代人になり果てた一人です。

 

 

 生きるために必要なものは、全て準備されている。とは、よく耳にします。

 それを探し出して使いこなした先人の恩恵を享受して現代人は生きています。

 恩恵にあずかるばかりでよいのだろうか。この先、自分たちが後輩に伝えるものはあるのだろうか。

 そんな申し訳ない気持ちを思う日もありつつ過ごしています。