今日は池田にある“GULIGULI”に行ってきました。
そこは、屋久島の自然を住宅街の一角に取り込んであります。贅沢かつ細やかなお庭が実現できているのは、経営母体が造園業者さんだからでしょう。大きな屋久杉が迎えてくれるエントランスは、自然石が敷き詰められ小川が流れている異空間です。
さて、『線と律』というピアノと素描家のコラボレーションのお知らせがInstagramで発表されたのは、ずいぶん前のことでした。
ですから、題名に惹かれて申し込んでいたことさえ忘れそうになっていましたが、なんとかカレンダーに付けたマークを頼りに、今日という日を迎えた次第です。
上の写真は作品の下に置かれた“shunshun”さんの言葉です。
ネットを見ると、
「陽光が煌めくおだやかな海
大地に降り注ぐ麗らかな雨
夜空に瞬く優しい星々の光」
を求めて、高知に生まれながら広島に住んで活躍されていると分かりました。
ボールペン一本で描き出すどの作品にも光が見えます。
冒頭、彼は、「線をただただ引いていると、だんだん無の境地といいますか、眠くなってきます。そんなときはほんの数分でいいから眠ります。そうしたらまた元気な自分にもどれるんです。睡眠ってすごいなぁと思います」。
荘子の「胡蝶の夢」ではありませんが、自分の境界を見るのが芸術家なのかもしれません。
そんな彼が、ある日聴いたCDに衝撃を受けて、連絡したのがピアノ演奏家の橋本秀幸さんです。
彼は環境音楽を奏でる大阪出身の人気プレイヤーです。
音楽をどうぞお聴きください!と差し出すのではなく、その日、その時、土地や環境や人々が合わさって生まれる音を、その場で作る即興音楽を大切にされています。
私は、彼の指先を見ながら、彼を育ててきた人々のことを思いました。
高校を卒業して進学した音楽専門学校の恩師にこんなことを云われたそうです。
「弾きたい音を待ってもいいから、本当に感じた音だけを弾きなさい」
よく言ってくれました。この恩師に心から感謝申し上げます。
なぜって、この言葉が彼をこの世に送り出したと言っても過言ではないと思うからです。
GULIGULIギャラリーのガラス窓の外には、ヒヨドリがつがいで戯れています。部屋の中はshunshunさんが線を引くボールペンの音と橋本秀幸さんの即興ピアノ。
このシチュエーションで内省的にならない人なんているでしょうか。
彼が響かせる音は、彼の脳が今感じている振動がそのまま、なんの飾りも虚栄もなく紡がれていると聴衆は確かに感じていたはずです。
慌ただしい日々にはない味わいに、自分が自分に戻れるように感じた時間でした。
“simple is best”
いのちの原点に戻れた一時間あまりでした。