こころあそびの記

日常に小さな感動を

 

 今宵は満月です。

 この月をアメリカインディアンの農暦で、「Buck moon」(バックムーン)と呼んだのは、牡鹿の角の生え替わる時期だからだとか。

 自然と生活が常に隣り合っていたことが分かります。

 

 夕立のない猛烈な暑さで、家庭菜園の収穫が止まり、なんとか耐えて三年目に入ったブドウの苗木も萎れています。

 元気なのは、雑草だけ。

 朝のうちに、少しだけ庭仕事をして、バラの枝に纏わりついたヘクソカズラを取り除いてやりました。

 

 

 こんな暑さですから、家の中でおとなしく過ごすしかなくて。

 こないだ、YouTubeで私と同い年の女性がベートーベンの「テンペスト」を弾いておられました。

 その後、なぜかその旋律が頭から離れなくなって、無用の長物とわかっていながら、ピアノピースを取り寄せて、いろんな方の演奏を聴きながら楽譜を眺めています。

 

 

 以前にもか何度かお話したように、小学生の頃、下敷きに黒のマジックインキで「苦しみの中から喜びが生まれる」と書いていた私です。

 ピアノを弾くことより、ベートーベンが苦難の中で生きる姿を想像することが自分の励みだったように思います。

 そして、その悩みもいつか過ぎ去ることを、心に強くイメージすることにベートーベンが一役かってくれていた。なんて子どもらしさの欠片もない子どもでした。

 

 

 ピアノ初心者が最初に出会う大作曲家はベートーベンではないでしょうか。

 中学生のとき、一学年上の先輩に憧れたことがありました。彼女はピアノが得意でしたから、ベートーベンのピアノソナタ「田園」の楽譜を見ながらピアノ談義をしたこともありました。

 そんな彼女に憧れて、私もベートーベン好きでした。

 ただし、私がベートーベンに憧れるのは彼の残した音楽というより、名言です。

 「神がもし世界でもっとも不幸な人生を私に用意していたとしても、私は運命に立ち向かう」

というのもあります。

 この言葉を誰よりも体現しているのは、間違いなく辻井伸行さんです。

 ベートーベンという存在が彼にどれほどの励ましを与えていることか。偉大なる先人よ、彼を導き給え。

 

 あらためて、辻井伸行さんの「テンペスト」の演奏を聴いて、凄さが胸に迫りました。

 たかが鍵盤、されど鍵盤。

 「神聖に近づきその輝きを人類の上に撒き散らすほど美しいことはない」

 彼のお役目は、確実にベートーベンと繋がっています。

 今宵は目を瞑って、彼の「月光」を聴くことにします。