近くの本屋さんが廃業される前日の先月末のこと。ないことに、何の用事だったか忘れましたが、国道を歩いていましたところ、その本屋さんに差し掛かりました。
閑散とした駐車場なのに、その割には入り口のドアの開閉回数が多いように見えました。
最後と思えば、今までのご恩返しをしたくなるものです。もっと早く、利用しておれば・・それは今更言っても詮無いこと。
最後に購入する記念本を探していたところ、『香君』(上橋菜穂子著)に目が吸い寄せられてしまいました。その理由は、装丁にありました。帰り道、すでに以前に購入した本であることを思い出して、miaさんのイラストがどんだけ好みなのかと苦笑いしてしまったことです。
でも、ひとつ収穫があったのです。それは、『ほの暗い永久から出でて』という共著があることがわかったことです。
津田篤太郎さんという医師との往復書簡を集めたものです。
御伽噺と文学の中間に位置する上橋菜穂子さんの紡がれる物語が生まれる過程は興味深いものです。
といって、ずっと前から存じあげていたわけではなくNHK『精霊の守り人』を観てからです。
その構想というか着想が、洋の東西を網羅していることに感心したのです。それは、『光る君へ』の大石さんと同じ賢さを見る思いがします。
世の中には頭の良い人がいるもんた、と感心したお一人です。
本の中にある、AIの登場により物語の質は変化するかというところが面白い観点でした。
ずっと未来にAIがもっと進化したら、こんな結論は笑い話になるかもしれませんが、今の性能のAIと仮定すれば、生きた物語は人間にしか書けないと思われる。ということに安堵します。
私たちは昨日と今日が同じようでも、大きい変化と小さい変化を繰り返し、それを経験として身体に書き込みながら生きています。
悲しいかったこと、苦しかったことを、うまくできなかったとしても、乗り越えたことが力なのです。
昨日の自分と今日の自分が違うのですが、そこがAIは経験値にできず平板な物語になる可能性が排除できません。
そこまで読んで、生きることは素晴らしいことなんだとあらためてうれしくなりました。あちこちに頭をぶつけながら、明日までがんばって生きることが、人工知能に勝るとすれば、小気味よい思いがしませんか。
そして、辛い経験で感じた弱音が、その人独自の発想力に繋がると書かれてありました。
科学の時代、21世紀を生きる力は案外人間力なのかもしれません。