こころあそびの記

日常に小さな感動を

夏来るらし


 家の前を掃きながら、ご近所さん同士で挨拶されていました。
 「おはようございます 気持ちいいですね」
 「おはようございます ほんとですね 昨日はあんなに降ったのに」
 「五月晴れですね!」

 そういえば五月に入ったのですね。それで、思わず「五月晴れ」と言ってしまった気持ち、よく分かります。だって、それほどに爽やかな朝だったのですから。

 今日は八十八夜で、明々後日は立夏です。
 あんなに待ち望んだ春が逝ってしまいました。
 

 春過ぎて夏来るらし白妙の
 衣ほしたり天の香具山     

 今朝の空を見て不意に、この歌が浮かびました。
 青葉若葉の緑が日一日と色濃くなっていく山腹に、白い布がひらひらと風になびいている様子が夏を連想させます。
 作者の持統天皇天智天皇の皇女であり、天武天皇の皇后から天皇になり、さらに文武天皇の補佐として太上天皇となられました。
 『日本書紀』では天照大神のモデルとして描かれているそうです。
 才色兼備で、しかも決断力ある男勝りであったと想像できる歴史上の偉人です。

 万葉集のファンにもいろいろなタイプがありましょうが、私は季節の移ろいを詠み上げる歌が好みです。特に視界が大きい歌は万葉集ならではのものです。
 小さな携帯画面に目を落としているだけでは、気づかないスケールだと自戒しています。

 万葉集つながりで、先日、『鵲森宮』という神社を見つけたことを報告させてください。

 用事で降りたJR森ノ宮駅がきれいになっていました。
 ちなみに、発車メロディーは「森の熊サン」です。
 構内には、「大阪公立大学」のポスターが貼られていたことから、思い出しました。この駅はもうじき大学生で溢れるようになるのですね。
 駅を出てすぐのところに、『鵲森宮』という小さな神社の旗が風に揺れていました。
 かねてより、カラスに間違えられることが多い霊鳥「鵲」が心に留まっていましたので、その神社の由来が知りたくて参ってきました。
 なんと、家持ファンとしては捨て置けない神社でした。
 「598年、それまでは日本にいなかった鵲を新羅から持ち帰る人があり、二羽を「鵲森宮」にて養い、枝に巣くい産あり」と日本書紀に記録があるそうです。
 家持が鵲を詠んだ歌碑が境内にあるというので、見回しましたら、工事中のフェンスの向こうに見えました。
 工事されてる方に、「お仕事中恐れ入ります。あそこに見えてる歌碑の写真を撮らせてもらえないでしょうか」とお頼みしたら、「怪我しても責任はとらんよ」とお許し?いただいて撮ってきた写真です。

 かささぎの渡せる橋におく霜の
 白きを見れば夜ぞ更けにける

 七夕の日にまた思い出すことにいたしましょう。