西洋医学の開祖に近いアリストテレスの時代には医学者は哲学者であったのに、近代に入って、科学の発達と共にこの2つが乖離していったということです。科学はデータ処理技術を生み出し、それが優先される世界です。生きた人間が次第に置いてきぼりになってしまいました。
今、医学が「半商半医」をはじめ、いろいろな問題を抱え始めているのは、そこに問題があるといえます。
その点では、訳の分からない中医学の世界では、数字ではなくて、体の状態を観察することに重きをおいていますから、中哲学が生きています。中哲学を知らないでは漢方薬は扱えないのが本流です。
「漢方をやるなら、中哲学をやらないとだめだよ」
確かに合点がいくのですが、実際に漢方薬を取り扱っている人に中哲学が浸透しているかは疑問です。
科学と流通が発達しすぎました。人の生活は先を急ぐことばかりを優先するようになっています。だから、時流として、そこは西洋医学と同じ難しさを抱えています。
過日、太閤園で開催された「デヴィ夫人の講演会」で聴いたお話によると、辞書に載っているだけで、“気”の付く言葉は二百以上あるそうです。
なのに日常的に「気」を気にすることはあまりないのではないでしょうか。
中医学で「気」はどこで作られて、どういうふうに流れて体を守るとされているのでしょう。
肺で天から清気を取り入れた肺気と、脾で取り入れた水穀の精微物質で「宗気」を作ります。
その宗気が身体全体に巡ります。
衛気となって体の表面を敵の侵入から守るもの(体表の防衛)。経絡に流れて循環を良くするもの。五臓で各臓器の働きを助けるもの。血流に乗って営気となり、体温保持など多彩な働きをします。
このように体全体に行き渡るのが「気」です。
「気」が身体を守っているなどと想像すらしない方もおありでしょう。しかし、これらのどこかに弱点があればそれが病気の症状として現れるわけですから、「気」は身体を守る砦であることは確かなのです。
気持ちが高揚するときと、意気消沈したときとでは体の状態は変わることは誰もが経験することです。
今、皆を脅かすコロナ。肺を犯すとされますが、肺は宗気を作る源です。肺が健全でなければコロナに打ち勝つことができません。
天からの清気を胸いっぱいに吸いたいのに、マスク生活を余儀なくされるとは、なんということでしょう。
これからの猛暑を乗り切るために、大切なことは水の補給と併せて、深呼吸です。人混みを避けて、マスクを外し、しっかり呼吸することを忘れないで過ごしましょう。