こころあそびの記

日常に小さな感動を

熊は自然学校の先生です

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 もう三十年も前になります。松本有紀先生の芦屋市民講座に出席したことから、漢方への扉は開かれました。
 四季を意識することもなく育った町の子の私にとって、「熊が冬眠する」という言葉は、分かり切っているというレベルを破壊するものでした。
 なぜ、そんなことをする必要があるのか。それは、一年には四季があり、春には春の、夏には夏の、秋には秋の、冬には冬の生活ルールがあるからです。自然と体との関係は変化しつつも大きく外れることなく繰り返されていることに新鮮な驚きを持ちました。

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 「熊が冬眠する」。冬になると自然は閉じこもります。寒さから身を守るために、動物も毛穴を閉じて消費エネルギーを最小限に抑えます。木々が裸になって眠るように、動物が冬眠するのは、活動を抑え体温を下げて冬を乗り切る仕組みです。
 先日、テレビで動物園の熊が冬眠に入ったというニュースを見ました。飼育員さんに藁を敷いてもらった熊は、自分で寝やすいように寝床を作って鼻を埋めました。
 
 冬景色の中で、人間だけがエアコンと防寒着で、冬も活動を続けています。
 そんな私たちの体も奥深いところでは冬を感知して、毛穴を閉じて体外への熱の放散を抑えています。でも、心臓の鼓動を意識しないように、季節に合わせた模様替えが静かに確実に行われていることを意識する人は稀です。
 活動を続けている人間ですが、本当は熊と同じように体は冬眠状態にあるのです。だから睡眠時間が長くなります。太陽が早くに沈めば休息の時間を長くすべきと誰が教えてくれたでしょう。教えられなくても体が知っている越冬の知恵です。
 動物園の熊の話にもどりますが、一週間に一度、芋を与えるそうです。
 そうなんです。寝ているから、冬はエネルギーが要らないのではありません。ましてや、動き回っている人間は体温を保つために熱を作り出さなくてはなりません。そのため、冬は夏以上にエネルギーを消耗します。
 栄養と睡眠が一年で一番必要なのが“冬”なのです。

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 私たち人間はどちらかというと周りの景色を見て四季を感じることが多いですが、動物たちには体の中にそれを知る感覚が鋭敏に残っているようです。どうして、動物園という環境に居ながら、冬眠の時を知るのか。それは不思議なことです。
 ロシアの農民は「冬至の日には冬眠中の熊が地中で寝返りを打つ」と考えていた。と倉嶋厚さんのご本で知りました。
 冬至は陰陽の入れ替わる日。一陽来復。この日を境にして、春が芽生えます。寒さ厳しくても、春の匂いに寝返りを打つ熊は自然学校の先生です。