こころあそびの記

日常に小さな感動を

椿と萱と


 おばさんになるメリットの一つに厚かましくなることが上げられます。
 そんなはしたないと思われるかもしれませんが、他人様に声かけをして知らないことを教えてもらえるようになれるなんて、若いときには思いもしませんでした。


 この春まだ浅い頃でした。
 そのお寺のお大師像が好きで、たまにお参りするお寺でのこと。
 御神木が聳えていたことは知っていましたが、名前が分かりませんでした。
 お忙しそうに階段を下りてこられたご住職の息子様とお思しき方を、ご迷惑承知で、厚かましく呼び止めてしまいました。
 「あの~、この木は何の木ですか?」
 「とがです。木ヘンに母と書くトガです。その周りに落ちているのも栂の実です。」
 「ありがとうございました」
 なるほど、回り込んでみると、可愛い実が落ちています。木の根元にはお賽銭が置かれていて、長らく気づかなかった御神木の栂とのご縁が結べたことは、おばさん?お婆さんの役得と喜ばしく感謝して、いくつか拾わせてもらいました。
 栂の木。ご存知ですか?マツ科の常緑高木。
 ブローチにできそうな、否、デザイン家はこんなところにヒントがあるのだろうと自然の美しさに感激したことです。

 「栂」という字は中国にはなくて、日本で作られた国字です。
 漢和辞典には「器具や建材の母体となる木の意」から作られた会意文字とあります。

 小学校のときに、山の形から「山」、川の流れから「川」と習うから、漢字はみんな象形文字だと思いがちですが、考えてみれば、世の中は形あるものばかりではないわけですから、その割合が一割ほどだといわれることも合点がいきます。

 

 この写真も可愛いでしょう。日を置いたので、こんな色になってしまいましたが、感激して拾った時は、淡い緑色と紅色でお化粧したような色合いでした。
 アートフラワーを染めから作る方なら、心奪われることを確信する美しさでした。
 これは、小さめの花で覆われた椿の根元に落ちていました。
 
 「椿」という字は中国と日本で違う木を指すようです。
 中国では、センダン科の落葉高木といいますから、日本の「椿」のイメージではないですね。
 実はこの日本でいう「椿」も国字です。ツバキ科の常緑高木で、器具を作り、実から油を採る木です。
 
 中国漢字の意味に「父」の意を持つと書いてあります。
 「椿萱」(チンケン)とは、父母の意味。
 なぜ、萱が母を表すのかと探ると、萱は「うれいを忘れさせる草」だそうで、母の住む部屋の周りに植えられたそうです。女はいつの時代にも悩み多かったことが忍ばれます。
 箕面には萱野という地名があり、旧西国街道沿いにある旧跡は「萱野三平邸」です。
 うれいの多い場所だったのでしょうか。