こころあそびの記

日常に小さな感動を

東京チムドンドン

 旅に出ることは、人間が野生を持っていたころのなごりなのでしょうか。いくつになっても、幼稚園児のどきどき感と変わらない興奮があります。
 前もって切符を買っておかないと安心できないのは、まだまだ旅なれていない証拠ですが、今回もやっぱり前々日にみどりの窓口に行ってしまいました。
 前に並んでおられた女性は私より少し年長のようにお見受けしましたが、四国の観光列車を、ご自分の書いたメモを見ながら完璧に購入されたことに驚きました。
 「左側の窓側」とか「三号車の一人掛け」とか、事前の調査がすごいのなんのって。
 更に、「時間をとってごめんなさいね」と後ろに並ぶ者への配慮も忘れずになさるのには、いい勉強ができたと感心したことです。
 

 同じ一人旅でも、今回の私の旅の目的はただ一つ。細川のお殿様ゆかりの場所を巡るワンデイツアーです。
 先週の火曜日から土曜日まで開催の日本橋での個展を拝見するのが主目的とはいえ、時間が許せば以前から行きたかった「永青文庫」と「肥後細川庭園」を行程に入れようと目論みました。
 電話したら、庭園のガイドツアーは土曜日しかありませんでした。つまり個展の最終日に当たります。もしも、当日が豪雨なら上京はあきらめざるを得ないという選択でした。
 イチかバチか、一週間、天気予報とにらめっこの毎日を過ごして、出発前にほとほと疲れてしまいました。
 ところが、お恥ずかしいことですが、当日、新幹線に乗り込むやいなや、そんな疲れはどこへやら。心は東京へ向かって一直線。
 老齢だからと怖れずに、まずは出発してみることが大切なのだと教えられる旅の始まりでした。それには、あの観光列車を買われていた女性に勇気をもらったことも大きいことでした。
 

 旅の余韻は、今も私を包み込んでくれています。
 お殿様を拝顔したわけでもないのに夢の中にいるような感じです。
 実は、図録を送っていただいていたので、ファンレターを隠し持っていました。
 家に帰って、「渡せた?」と娘に訊かれ、「そんなわけないやん。『二階に本人がいますから直接お渡し下さい』と受付で云われて縮こまってしまったわ」と、その火照りをまた思い出してしまいました。
 
 しばらくはこの旅日記が続くと思いますが、ご勘弁を。
 それにしても、「チムドンドン」が心と体にもたらす効果を確信した旅でした。