『僥倖』。
朝から輝く言葉を教えてもらいました。朝刊の『朝の詩』の題名です。
見れば、作者は92歳女性とあります。
夜明けに対面する喜びは体の中からわき上がってくるもので、古来、その時間帯の静寂を愛する人は数知れないことです。
「朝焼け」は夏の季語であるのは、起き出す時刻と関係があるのでしょう。夏の朝は人も太陽も早起きです。したがって、朝焼けを見るチャンスが多かったと想像できます。
しかし、これからの季節は、早起きすれば、真っ暗です。漆黒の空に星々の輝きが増す時間です。
この詩の作者は午前4時半に家を出たと書いておられます。
投稿してから、採用されるまで時間の時間を考えると、5時過ぎに日の出を迎える8月頃のお話なのでしょうか。
「東の山端が燃える」様子を、本当に美しく詠んでおられます。
この時間帯が好きな私は、彼女と一緒に夜明けを待っている気分に浸ることができました。
暁、東雲、曙、黎明、払暁など、明け方を表す言葉のなんと多彩なことでしょう。
「彼者誰」と書いて”かわたれ“。薄暗くて誰か見分けがつかない時刻を表す言葉にこんなのもあったのですね。
“黄昏”(たそがれ)は「誰そ彼」からきた言葉とも。
夜が明けていく時間帯にマジックアワーと呼ばれる、空の美しい時がやってきます。
薄明です。
地平線が徐々に姿を現すとともに、小さい星々が消えていきます。一等星が見えなくなれば、太陽が地平線まで上ってきた印です。
そこから始まる一瞬をマジックアワーというのでしょう。直接の太陽光がない分、空も風景も美しくて、”魔法の時間”とはうまく表現されたものと感心します。
「東の野にかぎろひの立つみえて
かえり見すれば月かたぶきぬ」
壮大なロマンは古代から繰り返され、人麻呂だけでなくすべての人に感動を与えてきました。
ただし、この幸せを掴むことができるのは早起きが条件です。
それさえできたら、「手に入れることが難しい幸せに思いがけず出会える」(僥倖の意味)ことでしょう。
もうすぐ、人麻呂がこの歌を詠んだ季節がやってきます。