「いつか、信州で飲んだジュースがおいしかったことを思い出して」と道の駅で見つけた“サルナシ”を友人からもらいました。
指先くらいの大きさの小さな実が十個ばかり入った入れ物の蓋を開けると、甘酸っぱい香りが広がりました。
サルナシがベビーキウイと呼ばれるのは、これを改良したものがキウイだから。その通り、切り口はキウイそっくりでした。
しかも、原種が持つ強みは改良されたものよりも強いことが推し量れます。だとすると、これを漬け込んだお酒は、果実酒の王様と呼ばれるのも納得です。
さらに、調べてみるとマタタビ科マタタビ属の蔓性植物で、太さは5センチメートルにも達するため、祖谷のかずら橋に使われるという記述を見つけました。
この愛おしいような実をつける茎に、そんな逞しく丈夫なイメージは重ならなくて、今度、祖谷村に行ったらその真偽のほどを聞いてみようと思ったほどです。
さて、サルナシをもらった瞬間、わたしの頭は『やまなし』でいっぱいになりました。
えっ、見たことのない”やまなし“って、まさかこれではないよね、という思いです。
やまなしは和ナシの台木なる、れっきとした落葉樹です。
全く違うものでした。
宮沢賢治の『やまなし』。
彼の書いた童話の中でも、人それぞれに違った読後感を残す作品です。難しく考えればきりがないけど、ふわっとしたシーンに思いを寄せれば懐かしい思いもします。
がさがさ探したら、我が家の本箱にも、『やまなしを読む』という小学校の国語の教材を解説した本が残っていました。それやら、ネットやらを読んでみたのですが、ストンと落ちてくるものはありませんでした。
この作品は理解するのではなくて、感じるだけでよいように思います。だから、小学生の感受性に引っかかるのではないか。引っかかって欲しいという願いも湧きました。
水の中に潜った経験がなければ書けない場面ばかりです。
水の底にどれほど美しい波紋が映ることか。
小さな泡ぶくがふわけふわ上っていく様子。
魚の腹が銀色に輝いて見えるわけ。
かばの花が水面を流れる春。
青白い夜の波に月の光が透き通って見えている様。
美しい水の中の世界を感じられました。というだけでは、作者は満足してくれないのかな。
いや、宇宙を描いた賢治ですから、きっと水の中にもロマンがあると場面設定したように思いたいです。
サルナシ、今からいただきます。香りを十分堪能してから。