この時間なら、きっとおられるのではと期待して、いつもの坂道に行ったら、三脚にカメラを据えて待つ人影がありました。
お邪魔してはと、後ろに控えていたら、背後からまたお一人いらっしゃいました。
彼女とお話するのは初めてです。
「今までは、家から見えていたのに、南に落ちるようになって、見えなくなったので」と、
此処に来られたわけを教えて下さいました。
冬至が近づいたので、太陽は西は西でも随分と南寄りに落ちていきます。
「もう、今日の夕空はこれでおしまいでしょうか?」と、尋ねたら、
「今から始まるんですよ!落陽から二十分くらいがマジックアワーですよ」
そうでした。マジックアワー。
前方に三脚を構える男性は、夕空を背景に機影を撮影されています。
その、準備がすごいんです。
伊丹空港から出発する機種を検索できるサイトがあるなんて、知らなかった。
「三機あとに“787”が来ますよ」と、
リアルに教えて下さいます。告げられた直ぐ後に、轟音が聞こえてきます。
来た来た!スマホでは、豆粒だと分かっているのに、真似して構えてしまうのです。
お二人とも、私と同じく現役引退組です。
楽しみを共有するって、なんと楽しいことでしょう。
そんなことをお話してるうちにも、大空のマジックアワーの不思議な色合いが刻々と変化していきます。
「紫の夕焼け」という倉嶋厚さんの文章があります。
「西の地平の空がサーモンピンクに染まっているとき、その少し上のほうをみると、紫色の濃いのに気づく。これが紫光と呼ばれる現象である。」
ずっと、この色が見たいと思っていました。
日没後をお二人とともに過ごして、撮ってきた写真を加工していると、目では分からなかった紫色が発色されました。
スマホカメラ、恐るべし。
科学の恩恵が、衰えていく視力まで補ってくることに感謝です。
でもね。本当は写真じゃなくて、この自然美と遭遇できる現場に立ち会えたことがうれしいのです。
私にとっては、地球の上に生きていることがひしひしと実感できるこの時間が生きる喜びのようにと思えるのです。