木々の落葉もほぼ終わって、見通しの良くなった田んぼの向こうに、皇帝ダリアがすっくと咲き誇っています。
皇帝の意味を誇示する花に見とれていて、あっ!と後戻りすると、やっぱりありました。琵琶の花。花というには地味すぎますが、その分、香りを振り撒いています。
みかんの香りとは違って、柑橘系と桃の香りを混ぜたような爽やかな甘さを持っています。杏仁豆腐の匂いと感じる人もおられるとか。
ごっつい葉っぱの琵琶の木を見つけたら、是非嗅いでみて下さい。今、限定の香りです。
庭に植えてはいけないとされる琵琶の木ですが、我が家には結構大きな木がありました。
茶の間に入り込む光量をこの木が調節してくれていました。そして、六月には大量の実をならせるので、毎日のように学校へ持参したものです。
なのに、この木が香っていたことを思い出せません。この年になって、有り余る時間が手に入ったからこその豊かさをありがたく思っています。
どこかで、老人は孤独だと嘆いておられるのを読みました。いやいや、この年になったからこそ、ゆっくりと味わえることが身の回りにいっぱいあるじゃないですか。
お友達は人だけではありません。自然ほど落ち着いて付き合える友はありません。
見えない目、聞こえにくい耳、鈍くなった嗅覚。総動員して楽しんでみてはいかがでしょう。
さて、散歩していると、迎春に向けて、剪定をされているお宅がちらほら。いい匂いがしてきます。
一日中この匂いを嗅いでお仕事される植木屋さんが羨ましい限りです。通り過ぎるのが惜しいように思えて足踏みしたりして。
昔は、庭掃除を命じられたら、落ち葉や枯れ木を集めて庭の隅で燃やしたものです。
今でも、野焼きの匂いが好きなのは、このときの記憶が蘇るからでしょうか。
今は、防火の観点から禁じられています。
しかし、キャンピングの流行と共に、その任に堪えるグッズが登場しました。
小さい入れ物の中で、焚き火ができるのです。
「お母さん、いい匂いがする」と、娘が報告にきます。
そりゃそうだよ。木はそれぞれにいい匂いをもっていて、その中でも好まれる匂いが香木になったんだもん。
いつのことだったか、
「お香は何のために焚くか知ってる?」
と孫に訊いてみたら、
「天国に届くように」
と、応えてくれたことがありました。ちょうど、大学で教えてもらったばかりの私は、その答えが嬉しいと同時に拍子抜けしたことを覚えています。
子供の感性、恐るべしです。
「 たきび
かきねのかきねのまがりかど
たきびだたきびだおちばたき
あたろうかあたろうよ
きたかぜぴいぷうふいている 」
こんな歌の情景を体験させてやりたい冬の到来です。