兵庫県立美術館は2002年に神戸震災復興のシンボルとして開館しました。私の中では安藤忠雄さん設計という話題が先行した美術館でした。
その頃にミーハー気分で見学した後、足が遠のいてしまったのは、遠方というイメージからでした。
近年になって、息子が神戸に住むことになり、孫の顔を見がてら、美術館にも足を向けるようになりました。
過日、美術館の入り口に貼ってあった予告に、なぜかドキッとしました。観に来たい。
調べたら、安藤忠雄さんと李禹煥さんの対談があることを知り、早速応募して参加権をゲット。
今日は、その日でした。
李禹煥(リ・ウファン)さんは現代美術の第一人者として、86歳の今なお、ますます精力的に活動中であること、そして、その存在自体も今日初めて知ったことです。
知らない作家に胸を揺さぶられたのは何だったのか。その答えは、今日、壁に書かれていた「一瞬の出会い 余白の響き 無限の広がり」という言葉を見つけたことで解決しました。
好きな世界観なのです。こんな言葉が並んでいるご著書なら読んでみたいと思いました。
ご自身は60年代の破壊時代にあって、すべてがリセットされた時代にスタートできたことが、ものを考える上でとても幸せなことだったとお話されていました。
作ることと作らないこととの対話の響き合いが、彼の思考を育ててきたのです。
作品を見ながら、日本文化の影響を大きく受けておられることは、“空白の美”から感じました。知る限りでは、書においては空白部が、書かれた部分以上の訴えを投げかけるといいます。それと似た感覚なのではないでしょうか。
韓国で生まれ、日本で学んだという生い立ちから、両国の狭間という立ち位置が緊張をもたらし、さらなる飛躍に繋がったようです。
さて、対談は事前申込者で満席。安藤忠雄さんのあのフランクなお話ぶりで笑い声の漏れる楽しい一時でした。
世界の安藤忠雄といわれるまでになられた意味がよく分かりました。世界中からオファーが来る理由も分かりました。
「皆さん、長生きしたかったら、知的体力を鍛えておくことですよ」から始まり、
「そのためには、心で見るトレーニングを積むことです。見たこともないものに出会うことで、自分で考えるクセがつきます。自分と違う人間がいっぱいいることを知ることも大切です。
そして、これらは学校教育では学べないのです。
生きてて良かった。
そういう出会いが、感性を磨いてくれます。
その出会いの場として美術館に来てもらえたら、うれしい。」
確実に、感度が上がる一日でした。