関大聴講の三回目。
クラスは先生と私以外は中国からの留学生です。
彼女たちは、ちょうど一人っ子政策真っ只中の世代ですから、両親から100%愛されて育ったお嬢さん方です。優秀で素直で純粋です。
その上、全員、学部から入学していますから、日本語のマスターぶりには目を見張ります。
授業で出された日本語教材を中国語に翻訳して発表するという即応ぶりに、外国語アレルギーの私は感心するばかりです。
そんなこんなの置いてきぼり感満載の数時間を過ごしています。何をしに行ってることやら。
そんな私のお楽しみは、雑談です。
中国では、「日本人は長生きだ」と思われているそうです。
その根拠として、「味噌汁を飲んでいるから」と、留学生全員が思っていたことに内心笑ってしまいました。
その流れで、中華料理の話に。
中国では、四川料理の火鍋に代表されるように、今までは辛い味が好まれる地域が決まっていたのに、近頃はどうしたわけか、全国的に辛くなっていると報告がありました。
辛味でまず思い浮かぶのは「唐辛子」ではありませんか。
これは、原産地は南米です。メキシコでは、7000年前の遺跡から出土したといいますから、人間にとって必要な味であったと推測できます。
おもしろいことに、中国に伝わったのは16世紀ということです。このころは、明朝時代であり、「唐」の6~8世紀をとっくに過ぎています。
なのに、明辛子ではなく「唐辛子」とは。小咄のようです。
ついでながら、日本には、関ヶ原の戦いの頃に伝わったとされます。
さて、気になるのは辛味がいかなる働きがあって、今も好まれるのかです。
辛味の働きは、「散」です。
ということは、動かすという働きを持つということですから、鬱屈した気を散じ、血行を良くして、体を温めます。さらには、老廃物を排出し、疲労を回復してくれます。
漢方薬にも辛味は必須です。繁用される葛根湯もこの味を利用しています。
しかし、食べ過ぎる、あるいは摂り過ぎると達成感や爽快感、気分を高揚させるアドレナリンやエンドルフィンなどの生理活性物質が出るということを覚えておくべきでしょう。
葛根湯を毎日服用して、調子がいいという人には知っておいていただきたい知識です。
人間、死にそうになると体から気持ちのよいもの、脳内麻薬が出るのではないか、と推理した人がいます。
ご明察です。人間の体は、幾多の困難をくぐり抜けてきましたから、危機が迫ると、自らを守るように働くありがたい機能が内蔵されているのです。
最後に、味から世界情勢が見えるといったら大袈裟ですが。
辛い味が世界的に好まれる原因が、発散したい鬱々したものが溜っていることにあるとしたらどうしましょう。“腹に一物”は早めの解消をお願いしたいところです。