こころあそびの記

日常に小さな感動を

陰陽の協調平衡

 

 大形徹先生のグループの中に、青春の日々を中哲を院生として学んでこられた方がありまして、今年、ずっと若いときに資格を取得していた看護士の道を歩み始める決心をされました。

 それが、私が40歳過ぎてから、薬剤師の仕事を始めたことに触発されたものなら、少々照れますがうれしいことです。

 今は再出発に当たっての研修中ですが、どうしたことか漢方について知りたいとご相談を受けました。もともと中哲の方ですから、当然といえば当然でしょう。

 

 

 そこで、一番に差し上げたのは陸希先生の古いプリントです。

 ひさしぶりに目を通していると、教えを乞うた日々が懐かしく思い出されます。

 自分が漢方に興味を持つようになった根本を教えて下さったのが陸希先生です。

 恥ずかしながら勉強嫌いの私ですから薬の細かな作用よりも、その考え方に吸い付けられたのです。

 

 普通は「気・血・水」と表現される体を作る基礎物質のことを「陰、陽、気、血、精、津液」と細分化した理論が中医学の学びはじめでした。

 先生は、特に「陽気」に注目されていました。

 この物質は目には見えないもの、つまり西洋医学においては表現の仕様のないものです。

 たとえば、鼻炎。西洋薬では、抗アレルギー薬を処方される症状です。

 でもこれは、冷えが根本にあって、体を温める作用をもつ陽と体表を守る気が不足していると考えると、なるほどと思い当たります。

 春先。冬の間、寒さに晒された体はまだ冷えが残っています。だから、冷えていますよ。寝起きですから、気も足りませんよ。

 というサインです。

 体を冷やさないということが、どれほど大切な養生法か、端的に示す例です。

 

 プリントの中で、私の好きな言葉と再会できました。

 「陰平らかに陽秘す」

 潤し冷ます働きの陰に対して、陽は温める働きがありますから、陰は海(水)、陽は太陽(火)ともいえます。

 海が凪いで、太陽に少し雲がかかっているような状態が体を安定に保ちます。

 それは、体温を考えるとわかりよいかもしれません。火が燃え盛ったら発熱してしまいます。

 それでも、いつか平熱をとりもどすのは、陰陽が協調して平衡状態に戻したからです。

 

 

 このように、正常な生理的環境は、バランス維持の上に成り立ちます。

 それを現代の生物学者福岡伸一さんが「動的平衡」という言葉で表しておられるように勝手に思っています。

 私は大阪万博には興味がないのですが、彼のパビリオンは楽しみにしています。

 今のところ、漢方と動的平衡の関係は私の推測の域を出ないのですが、もし一致したなら福岡伸一先生に手紙を書いてしまいそう。ファンです。と。