こころあそびの記

日常に小さな感動を

出がらし

 

 少し前のニュースに、子どもが肩から下げていた水筒で小腸を損傷したというのがありました。水筒でなんで?と訝しく思われるでしょうが、水筒をかけたまま転んだとき、もし体の前面に水筒があれば、内臓を傷つけてしまうことはあり得る話なのです。

 経験者は語るではありませんが、そのニュースは、自分の数少ない入院生活を思い出させました。

 小学六年に進級する春休みのことでした。

 おばあちゃんの家の前で、いとこたちと三角ベースをして遊んでいたときのこと。

 運動神経がとろい私は一塁ベース前で転んでしまいました。

 いとこたちは早く起きろとはやしたてるのですが、転んだ瞬間から激痛で立てなくなっていたのです。

 原因は、路上に落ちていた空き缶で腰を強打して腎臓破裂をおこしていたようです。

 

 

 直ぐに、目の前にあった病院に運ばれ、歩けない私を看護婦さんが二人かかりで階上のベッドに運んでくださいました。二人で腕を矢倉に組んで、その上に私を乗せて下さったこと、今でも覚えています。

 直後に出た尿は真っ赤でした。

 それから1ヶ月以上、入院を余儀なくされたことです。従って、私の六年生生活は少々スタートが遅れることになりました。

 

 

 どうして、久しぶりにこんなことを思い出したかというと、けさの『虎に翼』で使われた「出がらし」という言葉から連想してしまったのです。

 自分が預かった孫を傷つけてしまった祖母の負い目は、どれほどのものだったか、その立場にある今の私には想像に難くありません。

 祖母は毎朝毎朝、私が目覚めるより早くに病室に来て、掃除をしてくれました。

 そのとき、掃き掃除に使っていたのが、出がらしの茶殻だったのです。茶殻を床に撒いて掃けば、埃もたたず爽やかな香りで清掃できる。

 それが私の出がらしの思い出です。

 今は、いろんな便利グッズがあるので、よほどのお茶好きでない限り、急須でお茶を煎れる家庭は少なくなりました。

 お煎茶を習っていたとき、先生はお稽古で大量に出る出がらし茶葉を水出しにされていたことがありました。ものを粗末にしない昔の人の知恵は一つ一つ見習うところが多いことです。

 ともあれ、お茶屋さんが喜ぶ出がらし話で、茶葉の購入が増えたらいいなぁ。

 蛇足ながら、暑さでぼーっとした頭に、お茶は有効です。

 

 

 

 『虎に翼』で、星長官が「出がらしだからできる役目」と呟いたのに応じて、寅ちゃんが気づきます。

 「そのときの自分にしかできない役目」があることに。

 夫の夢を叶えて上げた寅ちゃんは本当に偉いなぁと思った回でした。