こころあそびの記

日常に小さな感動を

言葉のおみやげ

 「お客さん、言葉のおみやげを持って帰ってください」と、教えてくださったタクシーの運転手さん。

 おみやげは数あれど、自分の心に残ったお話を持ち帰ることに勝るものはありません。

 それに倣って、おみやげ話をしてみたいと思います。

 

 そもそも、なぜ、宮崎の二日目の行程に高千穂を選んだかというところからふるっていました。

 せっかくだから、宇佐八幡宮にしようか。いや、青島神社、鵜戸神社・・候補地を絞りきれずにいました。

 そんなとき届いた月刊誌『致知』を開きましたら、巻頭の言葉を今月から高千穂神社宮司でおられる後藤俊彦さんが書かれることになったとあるではありませんか。

 ええっ。これは高千穂に行けというお導きだと閃いて、即行、決定した次第です。

 あとで、知ったことですが、この宮司さんは、神社本庁から最高位の称号である「長老」を授与されておられます。ご本もたくさん著しておられたので、帰宅後、『山青き神のくに』という題名に惹かれてアマゾンに発注いたしました。

 

 という、流れに乗って、行くことにしたのですが、延岡から高千穂に向かうバスのフロントガラスに打ちつける雨を払うワイパーを見てるだけで、心が折れそうでした。

 横を流れる五ヶ瀬川の流量も激しくなってきてるように見えて、不安が増幅され、帰る算段ばかりが脳裏をめぐり始めたことでした。

 

 

 ところが、高千穂が近づくにつれ、雨が上がり青空が見え始めたのです。いい加減なもので、とたんに、失望から希望へと心が動いていきました。

 バスセンターで、事前に申し込みをしていたガイドの方と合流して、ウォーキングツアーの開始です。

 1対1の丁寧なツアー企画に、この町の観光にかける意気込みを感じました。

 高千穂神社では、神楽殿に入って夜神楽の説明をしていただきました。

 神楽は33舞あるそうですが、観光客向けには4舞されるそうです。

 本来は夜通し舞って、朝が近づく頃にクライマックスである天の岩戸が開きます。あたりに、日の光が満ちてくるタイミングです。それはそれは、感動ものであろうと想像しました。

 

 時間の関係で、高千穂峡でその方とお別れして、後はタクシーでまわることにしました。迎えにやってきた冒頭のタクシー運転手さんが、このツアーガイドさんを見るやいなや、私に向かって「あんたラッキーですね。高千穂で一番のガイドさんですよ」と云われるではありませんか。

 実はこのゴトウさんは「獄宮神社(たけみやじんじゃ)」の宮司さんで、しかも普段は高千穂神社にお勤めされている方だったのです。

 どおりで、高千穂神社社務所で巫女さんから「お休みされないんですか」などとからかわれて、談笑されていたわけが分かりました。

 

 後出しジャンケンではありませんが、そういえば、邪気のない方でした。自分を撮ることは皆無の私ですが、タクシー運転手さんに撮ってあげると言われて、ゴトウさんと一緒に写ったこの旅行唯一の人物写真。

 見れば見るほど、彼の人柄の良さが思い出されて、高千穂が好ましく思えてきます。

 高千穂には「獄宮神社」も含めて、八十八社あるそうです。これが最後、ではなくて、また来る日まで元気でいたいと思えた旅でした。