こころあそびの記

日常に小さな感動を

春先の養生

 

 週一回の安野光雅さんの『洛中洛外再び』を楽しみにしています。生前に掲載されていたものを、読者の希望に添って再度掲載されているようです。

 安野さんが育った津和野の町は今も人気のある場所です。そのわけは、土地の文化度の高さにありそうです。

 なるほど、彼の絵にはその洗礼を彷彿とさせるところがあります。

 

 先日は、「ゆず」。紙面を開いた途端に香ってくるような、さわやかさを感じました。

 絵に添えられた文に、「おいしくてゆずを絞って飲んでいる」とあります。酸っぱさが伝わってきそうですが、彼にはおいしい味だったのでしょうね。

 

 

 酸味。といえば、春と関係の深い味になります。

 五行では春、肝が旺盛になるといわれる季節です。

 この季節、スーパーにはりんごに代わって、黄色くて大きな柑橘類が売り場を占めるようになります。

 八朔、伊予柑。甘夏、日向夏なども遅れて登場することでしょう。

 そこに、自然の循環の確かさを感じます。

 

 春は、ぼーっとのぼせを感じたりします。ふわっとした浮遊感が春という季節の特徴です。

 ふわふわどこまでも旅に出るわけにはまいりません。そこで必要なのは、踏みとどまらせる収斂力です。

 キュッと引き締めてくれるのが「酸味」。嘘!ではありません。梅干しを想像してみて下さい。ほら、顔をしかめたでしょ?

 酸味は収斂作用を持ち、どちらかというと冷やします。

 

 お酢を摂りすぎることは、収斂して冷やすから、胃をいためるのもうなづけるところです。(肝と胃は相克の関係)

 

 

 この季節、「いややね、花粉が飛び始めたらしいよ~」という会話を耳にします。

 「早めに薬もらいにいくわ」と続きます。

 ちょっと待って!

 花粉という異物が鼻に侵入したから、洗い流すために水洟が垂れるのではないのでしょうか。

 つまり、健康な生体反応だと思うのですが、いかがでしょう。

 

 それを分かった上で服薬に進んでいただきたいと考えます。

 

 

 そして、薬(クスリ)はリスクを孕んでいることも知っておくべきです。

 たとえば、皆さんが水洟が出るからと繁用される「小青竜湯」。

 

 この薬の中には酸味の生薬が入っています。酸味で収斂することで、水を止めます。

 ところで、そもそも、なんで水が垂れてくるのでしょうか。

 それは、体の中に余分な水が溜まっているからという、いとも簡単な理屈です。

 寒さで、不感蒸泄すべき汗腺が閉じて、その結果、水は行き場をなくします。それらが、鼻水となって排泄されるのです。

 少し前に、牛乳を飲んだら身長が高くなるという都市伝説が流行りました。その頃、アレルギー性鼻炎が多発したのは、水分の摂りすぎに原因がありました。牛乳を止めたら、改善したことから、過ぎたるは及ばざるがごとしを思い知ったことでした。

 

 つまり、鼻水は水分の滞留で、その原因は体が冷えていることが原因です。

 

 だから、先ほどの「小青竜湯」は、収斂以外に温める作用を持っています。

 温めることで、症状が改善します。

 肺を冷やさないためには、鼻柱にホットタオルを当ててみたり、マスクを付けておくのも補助効果があるかもしれません。

 

 

 自律神経には、戦闘的な交感神経と、休息の副交感神経があります。

 交感神経が興奮すると、体は熱くなります。

 起床時に出ていた鼻水も、会議中には忘れているといった経験はありませんか。

 交感神経が興奮して、温かくなったから、鼻水は止まったのです。

 

 だから、「小青竜湯」の二つ目の作用は、交感神経を興奮させることです。

 交感神経の興奮は、血圧や血糖値、脂肪代謝など様々に影響を及ぼします。

 それを知ったら、ダラダラと続ける薬ではないことがお分かりいたたけるかと思います。

 

 

 立春とはいえ、名のみの春です。

 体は、冬仕様のままで、本格的な春を待っている状態です。

 長い冬を過ごしたおかげで、体は、自分が思う以上に冷えていることでしょう。

 鼻炎を起こすということは、そういうことです。だから、この季節の養生は温かくすることです。

 春色のオシャレはもう少しお待ちくださいね。

 抗アレルギー薬を飲もうとしているあなたのことですよ。