孫が修学旅行に出発する朝。
お弁当作りのため、いつもより早く起きました。
わんこと庭に出たら、まだ暗い東の空に細い眉月が上ってくるところでした。太陽に直下から照らされた煌めきは幻想的で、ちょっとの間、宇宙に同化した感覚に浸ったことです。
昨日、仕事から帰って、ひと息つこうとテレビを付けたら、外国映画に疎い私でも「この人知ってる!」という女優さんが映っていました。
その上、聞き覚えのある音楽がたたみかけてきて、つい手が止まってしまいました。
それは、『シェルブールの雨傘』。
切ないメロディーに酔い、カトリーヌ・ドヌーヴに魅せられて、とうとうラストまで観てしまいました。
この映画で描かれているのはアルジェリア戦争に駆り出される兵士とその恋人のお話です。恋人同士が戦争で、引き裂かれる話は今もどこかで繰り返されています。
人間はいつまで戦争を続けて、悲しみ続けるのでしょう。
ところで、私たちの年代にとって、外国の大スターといえば、カトリーヌ・ドヌーヴでした。
外映にそれほど興味がなくても、彼女が一世を風靡したことは知っています。
この映画の中では、サンローランのお洋服が次から次へと出てきます。それを彼女が着こなすから、余計に素敵に見えるのです。
あっ、バックベルトだ。あっ、ジャケットの2つポケット!スカラップ型の前立てなど、懐かしいデザインが溢れていました。
このおばはんが、どうしてそんなところに、懐かしさを覚えるのかというと、ちょっとしたわけがあります。
私の母の年代は戦争中の食糧難から解放され、アメリカ人女性のふくよかさこそが豊かさの証明と思い込んだ世代です。
ご多分に漏れず、母の体型は既製服に合わなかったため、いつもお誂えでした。
当時、高島屋のデザインルームにおられたデザイナー、山邊先生に、ずっと作ってもらっていました。
そんなことで、年に何回かは、まだ小学生だった私もおこぼれにあずかったというわけです。
当時はそれが、サンローランのデザインを取り入れてるなんて知りませんでしたが、映画の中でカトリーヌドヌーヴが着ている服を見て、遅ればせながら、そうだったんだと気がつきました。
劇中で何度も色違いで出てきた大きな丸襟にローウエストのワンピースは私も大好きなデザインでしたから、着てました。また、カトリーヌ・ドヌーヴの母親役の女優さんが着ていた緑色のコートは、まさに、仕立ててもらったコートと同じ風合いであり、色でした。
山邊先生には、その後、ウエディングドレスも作っていただきました。胸周りにスカラップのお花をあしらって、ウエストリボンはアップルグリーン色でした。
今から思えば素敵なお洋服を着せてもらっていたのですが、その後、ファッションセンスがちっとも磨かれなかったのは、一にも二にも自分の体型のせいだとわかっています。
ファッションセンスよりも食い気を選んだのは、母譲りということでしょう。
一本の往年の映画から、過ぎ去った日々をあれこれ思い起こしてしまいました。
最後に、「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」って聞こえてきそう。
映画全盛の頃のお話でした。