こころあそびの記

日常に小さな感動を

密かな楽しみ

 

 明日から寒土用に入ります。

 土用は夏ばかりではなく、四立(立春立夏立秋立冬)前の18日間のこと。次の季節に向けて、体調を整えましょうという期間です。

 平賀源内先生が夏土用に鰻を勧めたのは、夏場は鰻が売れなかったので、売るための苦肉の策だったといわれています。

 そのことからも分かるように、鰻は冬場のほうが脂がのって美味しいとか。

 寒の底です。自分の体で熱を産生しないといけない時だからこそ、しっかり栄養補給をいたしましょう。

 

 

 素人では、こうはいかない野菜の栽培。立派に育ったキャベツ畑で、「キャベツあげようか」と声をかけていただきました。

 犬と散歩中ですからと丁重にお断りしたのですが、物を育てるお仕事に従事されてる方の言葉はおしなべてお優しいから、少しの立ち話でもほっこりしてしまいます。

 

 

 しばらく行くと、道の傍らにオートバイを停めて、溝の中を覗き込んでいる女性がみえました。

 「もう、セリが出てるんですか?」

 「クレソンです」

 「ええっ?こんなところに?」

 「他の所にもあるのですが、ここのが一番美味しいんです。やみつきになりますよ!」

 そういえば、この溝の水は純粋な山の水だと、過日教えてくださった方があったことを思い出していたら、再び女性がまた溝に手を突っ込んで、私の分を採って下さいました。

 「ステーキとはいかないけれど、クリームチーズ、アボガド、パイナップル、生ハムもいいかな。サラダにして食べてみて」と嬉しそうに手渡してくださったのです。

 

 

 帰ってきて、水に挿して娘を待ちました。

 「ねえねえ、これなんだと思う?」

 「??、どこで拾ってきたん?」

 「溝の中(笑)」

 きっとバイクの彼女は明日も溝を覗きに来ることでしょう。そして、あった!というときめきが生きる力になるはずです。

 自分だけの密かな楽しみを持つことほど幸せなことはありません。元気に過ごす秘訣です。

 

 

 ちょっと遠回りしたら、サンシュユ畑がありました。お日さまに照らされて、ツヤツヤの赤いグミの実がいっぱい付いていました。

 来月にはサンシュユも、春黄金花という別名通りの黄色い花を咲かせることでしょう。

 今日、この場所に巡り会えたのは、どなたかがお連れ下さったものと思っています。すぐそこまで近づいた春景色を心に描いた散歩でした。