こころあそびの記

日常に小さな感動を

上靴で帰ってきたあ~ちゃん。

 
 
 朝の登校時間が迫っているのに、リビングから『ドラゴンクエスト序曲』が聞こえてきます。
 そっと覗くと、ピアノを弾いているのは孫のあ~ちゃん。
 すぎやまこういちさんの名曲を軽いタッチで立ち弾きしていたのです。
 「あ~よかった」。心から安堵したことでした。
 なぜなら、このところ何を話しかけても表情というものがなくて、これは反抗期の入り口か、それとも・・、とあらぬ心配をしていたのです。
 

 ところが、彼はそんな呪縛から昨日という日にすっかり解き放されたのです。

 午後、学期末の三者面談に出かける玄関で、
 「なんで?!上靴で帰ってきたん?」と娘。
 「外靴がなくなってん」とあ~ちゃん。
 
 その顛末は、学校に行って判明したそうで、クラスに発熱者が出て、急遽帰宅することになり、お世話した人が靴を間違えて持っていったらしいのです。
 下校時、靴がないと言った孫のために、たくさんの友達が総出で探してくれたといいます。
 しばらくのコロナ禍で学校も沈滞ムードが漂っていたようで、子供らしい交流がなかった分、みんなが心を合わせて取り組めた絶好の事件だったようです。
 そのことで、友達のありがさを思い出したでしょうし、気持ちを熱くしたに違いありません。
 おかげさまで、職員玄関で無事に見つかりました。そして、孤独感を払拭できたあ~ちゃんは、すっかり自分を取り戻すことができたようです。

 「友達とワイワイすることが大切なんよ。特に子供は」と娘が教えてくれました。
 そうなんだ、一人では楽しくないんだね。友達と遊ぶことが楽しいと刷り込んだ親にも感服したことです。

 私の老婆心が発動されるほど、彼が浮かない顔をしていたのは、コロナ休校が続いたことが一因だったのです。
 いくら家族が気を使ってやってもフォローしきれないものは、友達とのコミュニケーションでした。馬鹿話をしてじゃれあうこと。そんなことが、子供の生活にどれほど重要なのかを思い知りました。
 このコロナ禍が過ぎ去って、子どもたちが思い存分にはじけられる日が早く来ますように。元通りに、毎日、あ~ちゃんの明るい笑顔が見られますように。
 
 ピアノを弾いてみようかなと思うほどまで、心を取り戻した孫の姿がうれしい朝でした。