こころあそびの記

日常に小さな感動を

エノキの実

 

 早朝、台風が近づいているとは思えない青空に、月齢25の有明の月がはっきりと見えていましたので、進路を外れたかと期待してしまいました。しかし、お弁当を作り終わったころには、雲が目まぐるしく動き出して、台風の渦の中にいることは明らかでした。

 

 台風接近について、どこかの知事さんが失言して総スカンを食っているというニュースがありました。こんな時に”高揚感“が湧いてくるのは、いいように言えば子ども心を失っていないといえますが、大人の発言としては恥ずかしいそうです。

 とかくこの世は生きにくいことです。

 

 

 今日は長らくご無沙汰の千里中央公園に行ってみました。

 ただし、早めに切り上げて帰るつもりで、いつのもコースをショートカットして歩いていたら、進行方向で、自転車を停めて、私と同じように木を見上げて盛んに写真を撮ってる人影がありました。

 どんな方なんだろうという気持ちと、できることなら黙ってすれ違いたいという思いを整理できないうちに、その場所に着いてしまいました。

 挨拶もそこそこにすれ違おうとした私に、

 「かわいいでしょ」

と、彼の方から声をかけてこられました。

 彼が盛んにシャッターを切っていたかわいい実はエノキでした。ちょうど、今、緑から赤までいろんな色が見られます。

 

 

 街中であっても、いろんな木と出会えるいい時代になりました。

 このエノキは、まだまだ子ども。今からもっともっと大きく育つまで、平和でありますように。

 

 

 エノキ話に一段落したあと、彼は後ろにあったハマヒサカキの実を教えてくれました。

 「これはね、一年中楽しめる木ですよ」と。

 そのころには、警戒心がすっかり解けて、「おいくつですか?」と聞くまでになっていました。

 なんと、86歳の男性でした。

 自転車で箕面、吹田、豊中と出かけては、胸ポケットに入れたカメラで撮影されているとか。

 それらをファイルした作品集を自転車の前かごから出してきて、やおら鑑賞会が始まりました。

 

 

 前ハンドルに巻きついていた花に気づいて訊ねたら、ガガイモの花と教えてくれました。

 よく見れば、細かい毛がぎっしりついています。花言葉は「清らかな祈り」。この花をかわいいと目にかけられる気持ちが、この老人の健康法であることは言わずもがなです。

 「もう咲いたかな?」

 「あの鳥はもう来たかな?」

 「あっ、あれはキレンジャク!」

と、毎日遠くまで自転車を走らせる気力は、自然を愛でることから生まれていることは確かであり、それこそが、自然の一員である証明です。

 自分が86歳まで生きられようが生きられまいが、この心を見習って毎日を精一杯過ごしたいと願った散歩でした。

 

 彼の自慢の一枚。48羽のキレンジャク軍団です。