こころあそびの記

日常に小さな感動を

立杭焼きの里

 

 実は、きのう、10月の出前講座のキャンセルを知らされました。

 すでに準備に入っていたこともあって、一瞬信じられなくて呆然としました。

 このショックを抜ける方法は、一つしか思いつかなくて、立杭焼きの里の自然を見に行くことにしました。

 

 

 せいぜい二百何メートルの高さの山々に囲まれた静かなこの盆地が、私のお気に入りです。

 美術館を抱くように聳える山を、虚空蔵山といいます。

 虚空蔵菩薩弘法大師と縁のある仏です。ひょっとしたら昨日、NHK+で「花遍路」を観たから、お大師さんのお導きがあったのかしらと、都合よく考えるのも幸せのうちです。

 

 

 美術館。今日は企画展もなく、気まぐれ来訪者は私だけ。

 美術館の入り口で鑑賞券を買って進むと、例の甘い匂いがしてきました。

 思い出しました。ここは、カツラの木がたくさん植えられていることを。

 館内に入らず、お庭を回って、カツラたちを独り占めして深呼吸を堪能しました。これだけで十分来た甲斐があったというものです。

 傷を癒やすためにここに連れてこられたような。

 ありがとう。カツラさん。

 

 

 バスは、1日三本。二本目が12:28、三本目が15:30。できることなら、早いほうに乗りたくて、その時刻まで、辺りを散策してみることにしました。

 

 

 氏神様の住吉神社

 

 

 こういう階段の上に神様がおられるって素敵です。町中にはない鎮守の神様です。

 

 

 窯元の並ぶ道にあるバスの停留所に行ったら、独りの男性が座っておられました。

 「あの~バスはこの時刻に来るのでしょうか?」と訊いた私に、

 「さぁ。僕も初めてだから」と愛想がありませんでした。

 まだ、30分以上あるので、その場を離れることにして、近くの窯元を覗きに行ってみることに。

 

 

 「丸八窯」。応対してくださった男性に伺うと、親御さんも76歳でまだ焼いておられるとか。

 「お父様ですか?」

 「いや、母です」

 それが、この写真の女性です。

 ご高齢ながら現役でいらっしゃる。そのことにどれほど勇気づけられたことでしょう。

 キャンセルで全否定されたような気持ちから、少しずつ抜け出している自分を確かめたことです。

 

 

 バス停に戻ると、あの男性がやっぱり独りで座っておられました。

 勝手にお話し嫌いだろうと思って、辺りの風景写真を撮っていると、「来ましたよ~」って。ええっ?あの人の声?

 

 

 それからは、すっかり旅は道連れ。

 帰りの電車の中では、単身赴任先の東京のお話しをいっぱい聞かせて下さいました。

 定年した今は近くのスーパーで週四回働いているそうです。面接のとき、魚釣りが趣味と言ったばかりに、鮮魚コーナー担当に配属されて、毎日、大きな魚を捌いているとおもしろ可笑しく話されるのを聞いていると、楽しく生きる方法は自分で見つけるものと教えられたように感じました。

 

 カツラと窯元と無口だった男性。

 私を癒そうと計画して下さった神様に感謝申し上げます。

 すっかりニュートラルに戻りました。元気に楽しいことを探し続けたい私が完全復活した半日旅でした。