こころあそびの記

日常に小さな感動を

On the heavens(天を詠める)

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 平仮名の名前はどんなときに困るかというと、書道で漢字を書いたときの署名と落款です。かたい雰囲気が一発で和らいでしまいます。
 なのに、どうしたことか孫娘が平仮名で名付けられてしまいました。きっとどこかでつながっていた証なのでしょう。
 その孫に「ミータンは“美”しいという字が二つもはいってるから“べっぴんさん”!」と教えてやると照れながらも喜んでいるようなそぶりです。
 孫娘にした説明は、万葉仮名に置き換えればという意味です。万葉集に使われたから万葉仮名といわれます。  
 次の有名な歌ももとは漢字。

「天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見」巻7-1068番

 学生時代に教科書で見た日から、頭の隅にくっ付いて離れない情景です。
 柿本人麻呂は万人が見ている空を舞台に、他の人には見えない自分一人だけの映像を作っていた。今でいえばスーパー映像作家ですね。振り返れば、私自身この歌を知ってから、夜空の見方が変わったように思います。
 ギリシャ人が星々でお話を創作したように、星だけではなく天空そのものを相手に独創的なお話を作った先人を誇りに思います。
 「果てしなく広がる天の海に、雲の白波が立ち、その海を月の船が星の林を漕ぎ渡って行くのが見え隠れしています」
 なんと、壮大なロマンでしょう。この見方を知った日から、夜空は親しいものとなりました。

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 ところで、今朝の新聞書評欄で懐かしい名前を目にしました。
 リービ英雄さんです。
 アメリカから日本へ、そして、その後中国大陸へ渡って、とうとうチベットに到達されているようです。
 2004年に彼が出版された本を持っています。
 『英語でよむ万葉集』です。
 アメリカ人の彼が、源氏物語芭蕉以上に興味をもったのが万葉集でした。そのスケールと多様な叙情的表現は世界に例を見ないものと評価しておられます。

 On the heavens

On the sea of heaven
the waves of clouds rise,
and I can see
the moon ship disappearing
as it is rowed into the forest of stars.

 「夜空を見て天を詠み、天の姿を地上の比喩でつなげるレトリックを成立させた」と柿本人麻呂を評されています。

 大風が空を清めてくれました。
 中秋の名月ばかりでなく、天空そのものの大きさ深さを味わう季節の到来です。